「質問コーチング」で部下が考える習慣作り
そもそも「育つ」とは何か。それは、上司があれこれ言わなくても、自分で考え自ら仕事を進められるようになることです。
ということは、「自分で考える」「自分から動く」という経験を積まなければ、そんな人にはならないというのは誰でもわかる話です。
なのに上司があれをやれ、これをやれと指示をしたり、それは違う、なんでちゃんとやらないんだと自分のやり方を押し付けたりすれば、自分で考えるようにはならない。
「なんで勝手に進めるんだ」「そうじゃないだろ」などと叱責すれば、自ら進んではやらなくなる。そして、「どうせ何を言っても無駄」となり、指示待ち人間の出来上がりです。
同じ理由で、熱心な指導も実は逆効果だったりします。なぜなら、懇切丁寧に教えたら、自分で考える必要がないから考える習慣がつかないからです。
もちろん新入社員やその業務の初心者であれば、最初は手取り足取り教えることは必要です。しかし、慣れてきてもあれこれ熱心に指導すると、逆にうっとうしがられるだけ。
それに、教えた側は教えたことを覚えていますが、教わった側は覚えていないことが多いものです。なぜなら、教えることは能動的な行為で、逆に教わることは受け身だから忘れやすいのです。
そのため、教えた方は覚えているから「ちゃんと教えたじゃないか!」「何度同じことを言わせるんだ!」などとイライラしてしまう。
そこで、質問コーチング形式で考えさせるという方法があります。
指示を与えるときは、たとえば「なんでこのようにするか、その理由がわかる?」「なぜそう思ったの?」と聞いてみましょう。もしそれで「わかりません」という答えが返ってきたら、「キミだったらどうする?」と意見を促す。
そして、その方法が間違えていたとしても否定するのではなく、「なるほど、それは面白い考えだ。でもこんな可能性はない?」あるいは、「こんな問題が起こったらどう対応する?」「ではそれを防ぐにどういう準備が必要かな?」と、事前に失敗する可能性についてシミュレーションしてもらう。
そしてもし失敗しても叱責するのではなく、「原因はなんだと思う?」と原因を考えさせる。その回答がピント外れだったら、「なんでそう思ったの?」と掘り下げる。
顧客に連れて行くときも、「顧客からこんな質問を受けたらどう答える?」「顧客からこんな反論が来たらどう答える?」と事前にロールプレイングする。
新しい仕事を与える時も、いきなり手順をアドバイスするより、「どうしたらいいんだろうね?アイデアない?」などと考えてもらいましょう。
もちろん、最初は正解にたどり着かないこともある。そこで、「こういう視点もあるんじゃない。ではそれらを組み合わせたらどういう方法がとれそう?」などと、部下が知らない情報を加味して質問する。
仕事の手順を教える時も、「あとで理解度を質問するからそのつもりでね」とか、「あとで質問を受け付けるから、最低2つは質問事項を考えておいてね」などと言っておけば、注意して聞いてくれるでしょう。
もし雑用やルーチンワークつまらなそうにしていたら、「この仕事を後輩に任せるとしたら、キミならどんなコツを伝授する?」と質問すれば、その仕事を振り返り、効率的にこなそうと意識するようになる。
そうやって質問を繰り返すことによって考えさせる、仮説を立てさせる、脳内シミュレーションをさせる。命令や叱責をしなくても、育てることは可能です。
任せる度量を持つ
上司の指示どおりに部下を動かせたほうが、たしかに成果は速く確実に出るかもしれませんが、それでは部下は自分で決断する経験ができず考えなくなるだけ。
部下の成長を考えると、時間はかかるけれども考えるように仕向けること。(致命的でない失敗でなければ)失敗しても受け止めると覚悟し任せること。最初から最後まで責任を持って完結する経験をさせるという度量が、上司には必要です。
自分の思い通りにならなくても、自分が望ましいと思う方法ではなくても、ある程度部下に任せることです。
そして仮にやり方が間違っていても、「そうじゃないだろ!」と否定するのではなく、たとえば笑顔で「あれ?そういうやり方だったかな~?」と含みを持たせて穏やかに伝えてみるとか。
部下が、「あれ、違ってましたっけ?」と聞いてきてもすぐには答えを教えず、「どうだろう~、どうだったかな~?」と考えさえる。
そして、「あ、思い出しました!こうですよね!」「正解!それでやっていこう」などと、上司が余裕のある態度で見守ってあげる。
そうやって上司が鷹揚にしていると、部下は委縮せず安心して取り組むことができます。
仮に失敗しても、叱責するのではなく、「なぜこうなったか、次からはどうすればいいか」を引き出し、わからないというなら一緒になって考えてあげることです。
些細なミスや失敗でも、ほとんどの場合、部下自身は反省しているものなので、そこにあえて塩を塗り込む必要はないでしょう。上司も人間ですから、「なんでいつも同じことを言わせるんだ」「なんでこんなこともできないんだ」とキレそうになることがあるのはもちろんですが、ここをじっくり我慢することで、部下は「戦力」に育っていきます。
また、この経験は部下自身にとっての学習効果も期待できます。
というのも、能動的な失敗体験がないままに仕事のコツや効率的な方法を教えてもらうと、その教えのありがたみがわかりません。そのためすぐに忘れ、同じ失敗を繰り返すことにつながりやすい。
しかし、自分のやり方で失敗した経験や、自分の段取りが悪くて手戻りが発生したこと、自分の効率が悪くて二度手間三度手間になってしまったような経験を経てコツをつかむと、納得感が強く、忘れにくくなります。
もちろん致命的な結果になりそうなことや、顧客や取引先に迷惑がかかるような失敗は、たとえば「こういうことになる可能性はない?」などと助言し、未然に防ぐのも上司の役目です。
また、いきなり大きな仕事を丸投げして失敗させると、逆に意気消沈して潰れてしまうこともありますから、あまり重要ではない案件のほうがよいでしょう。成功体験だけでなく、失敗体験も段階を踏む必要はあります。
むろん現場では、「そんな悠長な時間はない。即戦力化を急がされているんだ」という状況がほとんどだとは思います。それでも、なるべく部下自身に考えてもらい、失敗を経験してもらったほうが、結果的には早く育つものです。
上司にはそういう忍耐力、つまり部下が成長するのを辛抱強く待つ力が必要です。というか、組織の中で最も忍耐強いのが上司とも言えます。
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