北京では6,500万戸が空き家に
都市部の住宅は、2017年時点で6,500万戸も余剰(空き家)となっている。その率は2%だ。北京市民の9割強は、持家という統計(人民銀行発表)が発表されている。住宅普及率は天井圏なのだ。
今後の新築家屋は、余剰家屋を増やすだけの段階である。この事実を当局も市民も認識せず、住宅=値上り資産と誤解するまでとなっている。大いなる錯覚だ。
前記の空き家6,500万戸が、値上がり益を見込めず、一斉に売り出されたらどうなるか。
中国では、住宅内部の造作をしないで購入者に引き渡す習慣である。よって、空き家は新築物件同様の価格帯で販売できる。日本では中古物件扱いだが、人間が住まなかったので新築扱いが可能なのだ。
こうした空き家物件の存在を考えれば、住宅建設需要は急減し、土地購入需要も消えてしまうはずである。すでに、6月以降の土地入札件数は激減している。
ロイターが1,000件余りの告示情報を分析したところ、現在進んでいる6~10月期の入札は9月30日時点で、入札が撤回されたり、応札のなかった区画が全体の約40%に達した。第1回入札ではこの比率は5%だった。ロイターの調べによると現在、北部の天津は61区画のうち、売却されたのが40区画。遼寧省の省都、瀋陽は46区画中19件に過ぎないのだ。
ムーディーズは、今年の土地売却額の伸びが1ケタ台の前半にとどまり、来年はマイナスに転じると予想している。昨年は16%増だった。また、土地売却の状況がさらに悪化すれば、負債額が大きい天津や遼寧省などは、債務返済に窮しかねないという。
「土地錬金術」経済の破綻が、これから証明されることになろう。
現実になってきた「灰色のサイ」
こうした土地錬金術経済の破綻を目の当たりにして、習氏の周辺部は慌て始めている。
経済政策面で習氏の側近ナンバー1である劉鶴副首相は、習氏と中学時代の同級生という近い関係もあって、繰り返し金融リスクの危険性を警告しているという。
また、銀行保険監督管理委員会主席と中国人民銀行(中央銀行)の共産党委員会書記を兼務する郭樹清氏は、不動産問題を「灰色のサイ」に喩えているほど。以上は、『ロイター』(10月14日付)が報じた。
灰色のサイとは、高い確率で問題が起きることが分かっていながら、軽視されている事象を指す。
中国指導部内の政策議論に関係しているある人物は、「不動産規制は痛みを伴うだろう。しかし、これは成果を得るために必要な対価なのだ。過去を見ると、われわれは経済の下振れが原因で常に規制を緩和しているが、今回の指導部の決心は非常に固い様子だ」と明かにしたという。
長期的経済政策を作れない中国の一点突破主義
要するに、「不退転の決意」で不動産バブル解決に臨むとしても、地方税制が土地売却収入に依存しない「一本立ち」できる制度設計をしなければ、強硬策を取っても自滅するだけだろう。総合的な視点を欠いたまま、「一点突破主義」で強硬策へ進むほど危険な政策はない。
実は、中国の政策はこの種の一点突破主義が横行している。それが、長期的に見て経済政策を失敗させている理由である。まさに、「計画経済」の落ち込む点である。
多分、中国にはまともな「産業連関表」が存在しないのであろう。市場経済の仕組みは、この産業連関表によって解き明かされるので、1つか2つのファクターを入れ換えれば、経済全体のどのような影響を及ぼすか。その概略を把握できて、以後、政策選択の幅が広がるはずである。
中国には、そうした政策のシミュレーションが行われていないのであろう。
50年前の日本では、この産業連関表が作成されていた。この大事業を指揮した、ある教授の研究室には、巻紙状になった産業連関表が克明に描かれていた。
こういう地道な研究の下に、政策の選択が行われなければ、合理的な政策が実施されるはずがない。