不動産バブルを放置した政府の罪
それにしても驚くのは、不動産バブルのもたらす悪弊に気付かず、現在まで放置してきたその「神経」の太さだ。GDP至大主義の「陥穽」(かんせい)に嵌ったのである。
GDPを膨らませて国威発揚を図る、20世紀的発想に酔っていた。具体的には、次のような強硬策を狙っていた。
軍事費を拡大して、南シナ海を支配する。余勢を駆って台湾・尖閣諸島を窃取してアジア覇権を実現する。
さらに、米国の世界覇権に挑戦するという「中華再興」の夢は、不動産バブルが築いた脆弱な経済基盤の上にあった。その基盤が、いま中国恒大の経営危機を契機にして大揺れである。
その結果、習氏の『求是』に掲載された論文で、「2050年頃に共同富裕を実現する」という大幅後退論になったと見られる。
老子が描いた桃源郷「大同社会」を作りたい習近平
中国では、なぜそれほど「共同富裕論」実現に長期間を必要とするのか。それは、中国の社会構造が完全に共産党員によるヒエラルキー(階級支配構造)になっており、簡単に崩せないほど強度が高まっていることを証明している。
習氏は、このヒエラルキーのトップに立つ。中国共産党の寿命を長くさせるには、中国民衆を取り込んだ社会を作らなければならない。それには、老子が究極の桃源郷として描いた「大同社会」の実現することである。
中国共産党は、マルクス・レーニン主義を標榜しているが、それは「中国型」に改編されたものだ。その意味で、「共同富裕論」は、老子の「大同社会」と見て間違いないであろう。
老子の「大同社会」は、私有財産を持たず、住民は老若男女がことごとく助け合い、子どもは社会全体が育て、争いのない世界である。この理想郷は、現在の中国共産党が天下を取る社会と、似ても似つかない異質のものである。
30年後へ先送りの共同富裕
中国のジニ係数は、「0.4台後半」が常態化して混乱し、米資本主義国家よりも劣っている。この状態で、米国覇権に挑戦するなどと言えば、劣等生が自分より比較的成績の良い者に、喧嘩を売るような話で共感を得られない。
そこで、習氏は「共同富裕」実現を30年後に実現すると言い始めた。
30年後へと大幅にずらせるのは、共産党の「紅三代」(共産党革命を実現した3世)が、私有財産(主に住宅)への新規課税(固定資産税・相続税)を忌避しているからだ。現状では無税である。この特権を簡単に手放すとは思えないのだ。