3月に大統領選を控えた韓国だが、現在の大統領制には致命的な欠陥がある。韓国の大統領制のもとでは司法・行政・立法の三権分立は建前だけとなっていて、事実上、大統領がすべての権力を握っているのだ。次の大統領が誰になるとしても、「大統領=皇帝」の図式が変わらねば政治の衰退は避けられない。『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
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元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
三権分立は「建前だけ」。全権を握る韓国大統領
ゲームにはルールがある。ルールに反すれば「反則負け」だ。戦争にはルールがない。勝てば官軍、負ければ賊軍の汚名を着せられる。韓国の大統領選はルールなき争いであり、戦争と同じである。勝てば権力の「総取り」であり、韓国社会を100%牛耳れる。皇帝なのだ。
韓国大統領選が、日本人から見て興味津々なのは、その無秩序な暴露戦にある。TVのワイドショーにうってつけの内容なのだ。恥も外聞もなく、ライバルのプライバシーを暴露しているのは、韓国大統領制によって広範な権力を握れる魅力にある。
司法・行政・立法の三権分立が、韓国では建前だけの話である。すべての権限は、大統領に帰属する。全人事権を握っているからだ。
「チェック・アンド・バランス」こそ、独裁を防ぐ唯一の方法だが、韓国にはその不可欠のブレーキが存在しない。再言すれば、全人事権を握っている韓国大統領制は、政治腐敗の最大要因である。
政権が司法へ報復人事
最近、韓国大統領がいかに恣意的な司法人事を行なっているか。それを証明する話が、明るみに出た。
チョ・グク元法務部長官を巡る事件の捜査を指揮した韓東勲(ハン・ドンフン)司法研修院副院長(検事長)は1月27日、名誉毀損の罪で起訴された元盧武鉉(ノ・ムヒョン)財団理事長、柳時敏(ユ・シミン)被告の裁判に証人として出廷した。その際、被告人に対して悲痛な叫びを吐露したのだ。
「柳氏や今の権力者はまるでどんなことをしても、自分たちのことは捜査してはならないという超憲法的な特権階級かのように行動した」と述べた。
柳被告は2019年12月と20年7月、動画投稿サイトのユーチューブで、「検察が盧武鉉財団の口座をのぞいたという事実が分かった」「当時韓東勲がいた反腐敗強力部が(口座を)見た可能性がある」と述べ、韓氏の名誉を毀損したとして、21年5月に起訴され、審理が続いている。柳被告は21年1月、発言内容について、「疑惑は事実ではなかったと判断する」と公開謝罪した。
このようにウソの発言をしたことが発端だった。
文政権は、このウソ発言を真に受けて敏感に反応した。文氏の政治師匠・盧武鉉財団の理事長発言である。捨ててはおけないと当該の捜査責任者である韓東勲氏を即刻、左遷したのである。まさに人事権100%を握る文大統領だからできる芸当だ。