2023年3月23日に米連邦議会でTikTok問題に関する公聴会が開催されました。なぜ、そこまで米国はTikTokを恐れるのでしょうか?TikTokの歴史を振り返ることで、今回の公聴会の公平性にあるのかについても解説します。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2023年4月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
米国はなぜTikTokを問題視したのか?
みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。
今回は、TikTokの問題についてご紹介します。
3月23日に、米連邦議会でTikTok問題に関する公聴会が開かれました。日本の報道では、「TikTokが違法に米国人の個人情報を収集している疑惑」に焦点があたっていますが、公聴会ではその問題ともに、不適切コンテンツが青少年に与える悪影響も大きな論点となりました。
実際、TikTokのコンテンツに影響された未成年の死亡事故も起きているため、決して無視できない問題になっています。
このような不適切コンテンツの問題は、UGC(User Generated Content)を共有するSNSに共通した問題です。不適切なコンテンツは公開をしないフィルタリングを行うしかありませんが、ポルノや暴力など、多くの人が不適切だと認めるものであればともかく、なんでもかんでも排除をしていたら、今度は言論の自由と衝突をすることになります。
バイトダンスは、過去、このような不適切コンテンツにどのように対応してきたのでしょうか。
今回は、公聴会で議論されたTikTokの問題をおさらいし、バイトダンス創業者、張一鳴の軌跡をたどりながら、バイトダンスが不適切コンテンツにどのような対応をしてきたのかをご紹介します。
TikTokの問題点
3月23日に、米連邦議会で、TikTokに関する公聴会が開かれ、TikTokの周受資(ショウ・チュウ)CEOが証言をしたことは、さまざまな報道でご承知だと思います。出席した議員たちは「TikTokを禁止すべきだ」という前提であるため、非常に厳しい質問がチュウCEOに浴びせかけられました。
TikTokの何が問題になっているのでしょうか。問題とされるのは次の5つです。
1)違法な情報収集をしているのではないかという疑惑
2)合法的な収集情報の扱い
3)未成年に与える悪影響
4)報道に与える悪影響
5)米国による中国つぶし
このうち、公聴会では1)から3)までが具体的に質問をされ、4)については米国のSNSやメディアで話題になっているものです。また、5)については、米国の専門家、評論家が背景にある事情として、ファーウェイへのチップ供給停止問題なども絡めて語っています。面白いことに、この論点は、中国メディアでの報道はほとんどありません。理由を数人の中国人に尋ねてみると、「あたりまえのことすぎて、もはや報道するまでもない」という意見が圧倒的でした。さらに、「ファーウェイやバイトダンスは、こういった抵抗が起きることは、リスクとして織り込み済みで海外展開をしている」という意見もありました。
私は国際政治学者ではないので、このような国家間の戦略については、きちんと理解をしているとは言えません。そこで、5)は省略をして、1)から4)までの問題についてご説明をしたいと思います。
TikTokは違法な情報収集をしていない
1)のTikTokが違法な情報収集をしているのではないかという論点については、チョウCEOは明確に否定をしましたし、CNNなどもさまざまな研究が、違法な情報収集の証拠は発見できていないと報道しています。
これは客観的に見てもうなづける報道です。例えば、iPhoneの内部に保存されている連絡先データなどは、アプリが勝手にアクセスできないように設計されています。アプリの動作はいわゆるサンドボックス(砂場)化されていて、アプリがデバイス内部のデータに勝手にアクセスできないようになっています。もし、TikTokがこのサンドボックスを超えて、内部データにアクセスしているのだとしたら、iOSやAndroidに重大な脆弱性があるという話になり、アップルとグーグルは大騒ぎになり、セキュリティーアップデートの配布を始めることになります。
出席した議員たちは、チョウCEOの説明にまったく納得をしていない様子でしたが、客観的に見れば「明確に否定をされた」と言ってかまわないと思います。
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