不適切映像が流れるのは不適切な映像が好きだから
ところで、抖音は中国国内専用サービスというだけで、基本的な仕組みはTikTokと同じであり、なぜ米国議会が問題にするような不適切コンテンツの拡散が問題にならないのでしょうか。それは中国と米国の社会のあり方の違いによる部分が大きいかと思います。
米国議会で問題にされたような自殺や自傷行為、ブラックチャレンジのような投稿は、中国では明確に違法行為になります。社会不安を煽るようなアジテーションを行うことは重い罪になるのです。それは中国市民はよくわかっているため、そもそもそういう動画を投稿する人はごく稀ですし、投稿されたとしても、多くの人がすぐに運営に通報するため、拡散が小さなうちに発見されて削除されることになります。同様に、情報が不足をしていたり、誤った情報が載せられ、社会に誤った印象を与える報道も重い罪となります。そのような動画もすぐにユーザーから通報され、削除されることになります。
中国は大量の人が高密度で暮らしている社会であるため、社会不安を煽る行為は非常に重く見られます。もちろん、裏を返せば、言論の自由が制限されているということなのですが、結果的に抖音に関しては大きな問題を起こさずに済んできています。
面白いことに、今日頭条にプロの編集者は一人もいません。普通は、ニュースキュレーションアプリであれば、新聞社などからプロの編集者を招聘して、編集方針を決めて配信をすることになります。しかし、張一鳴の考え方では、「何が良記事であるかは、運営側が決めてはならない」のです。何が良記事であるかを決めるのは、一人一人の利用者であり、今日頭条は、私という人間の嗜好性を理解し、私にとっての良記事を配信するというのが理想の状態です。ですので、同じ、今日頭条でも、使っている人によって、配信される記事はまったく違っています。
これは抖音、TikTokも同じで、配信されてくるムービーは人によってまったく違います。ある人が「TikTokって、ろくでもない低俗な動画しか流れてこないじゃん」と怒っていたとしたら、それはTikTokが低俗なのではなく、その人が低俗な動画が好きなのです。動画に対する反応が計測され、まるで自分の内面を映し出したかのようなリコメンドが行われます。ですから、今日頭条、抖音、TikTokでは、自分が読みたい見たいと思っているコンテンツばかりが配信されてきて、非常に魅力的なメディアに感じられるようになるのです。
この「人が介在しないリコメンド」というのは極めてクールな考え方で、張一鳴ならではの発想です。しかし、中国には一定程度の社会フィルターが備わっているために成立をする考え方で、自由社会ではこの社会フィルターの役割をどこかが受け持たなければなりません。
バイトダンスは、UGCを使った内涵段子で痛い目を見て、そのような問題を起こす可能性のないPGCを使って今日頭条で成功しました。PCGはプロが制作しているため、あらかじめ社会フィルターがかけられているからです。そして、再びUGCを抖音で扱いましたが、たまたま中国社会のあり方が特殊であったために問題を避けることができました。利用者たちが社会フィルターの役割を果たしてくれたからです。
しかし、これをTikTokとして自由社会に展開した途端、不適切コンテンツの問題が生じたのです。これは私の個人的な意見ですが、バイトダンスはこの問題は盲点になっていたのではないでしょうか。
米国議員の中には、何でもいいからとにかくTikTokと中国系企業をつぶしたいという攻撃的な方もいて、今後もこの問題は長引きそうですが、公聴会の内容を聞く限り、個人情報の流出に関しては問題があるとは思えません。問題は、中国のバイトダンス社員が米国の個人情報にアクセスしていたという疑惑一点のみです。
しかし、不適切コンテンツの制限については、TikTokにとって重たい難問になります。TikTokだけでなく、他のSNSでも共通した問題ですが、UGC主体のSNSで、不適切なコンテンツを排除することの難しさを考えさせられます。というより、SNSはネット上の「ダベリ場」ですから、不適切発言を完全に除去することは不可能で、みんなでスルーをするという免疫的リテラシーを身につけていくしかありません。しかし、未成年にそこまで求めるのは難しく、自由社会ではSNSの年齢制限や年齢レーティングを考えていかざるを得なくなるかもしれません。
創業して11年、バイトダンスは後に伝説となるような勢いで急成長し、TikTokを世界中に広げてきましたが、大きな難問につきあたりました。ツイッターでも、不適切な発言を削除すべき/削除せずにおくべきの議論が続いています。SNSが成長をし、メディアとしての影響力を持つようになり、私たちは言論の自由にあり方に立ち止まって考えなければならない段階に差し掛かっています。TikTokが今後、どのような対策をとってくるのか、注目する必要があります。
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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
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』(2023年4月3日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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