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なぜTikTokだけが目の敵にされるのか?最先端フィルタリング能力を否定する米国議会の傲慢=牧野武文

合法的な情報収集かどうかはグレーゾーン

2)の合法的な情報収集の扱いがTikTokの最大の問題になる点です。アプリは勝手にデバイス内部の情報にアクセスできないようになっていますが、利用をしているユーザーが許可を与えるのであれば、話は別です。みなさんもスマホを使っていて、「○○(アプリ名)に位置情報の利用を許可しますか?」というダイアログを見かけたことがあるかと思います。ここで許可をすれば、利用者の承諾を得たことになり、デバイスの内部情報にアクセスすることは何ら問題はありません。

チョウCEOは「テクノロジー業界に属する他の多くの米国企業が収集している内容と同等のものにすぎない」と主張をしました。

しかし、ここにTikTokの問題があります。2020年以前、米国人利用者から収集された個人情報は、中国のバイトダンスが自由に閲覧をできる状態になっていました。これは米国企業であるツイッターが、日本人利用者の情報を閲覧できるのと同じことで、普通のことです。しかし、米国は多くのネットサービスを生み出している国であるため、他国の利用者の情報をあたりまえのように閲覧していましたが、中国生まれのTikTokで初めて、自分たちの大規模な利用者情報が他国企業に閲覧される事態となりました。

これにより、2020年にトランプ政権下で「TikTok米国事業を米国企業に売却する命令」という事態が起こります。この時は、何となく話が立ち消えになってしまいましたが、問題になったのは、中国の国家情報法第7条です。すべての組織と個人は、国家の情報活動に対して支援と協力をしなければならないと定められているため、いかに合法的であったとしても、TikTokが米国で収集した米国人の個人情報が、中国バイトダンスの手に渡れば、中国政府はバイトダンスに情報提供を合法的に求めることが可能になってしまいます。

TikTokでは、この点を解消するために、米国で収集した個人情報は、米国内で管理をし、国外には出さない体制を構築しました。

しかし、これに漏れがあったのです。中国のバイトダンスの社員が、米国のデータを閲覧していることを窺わせるやり取りが流出をしました。このやり取りの真偽は不明ですが、他にも中国のバイトダンスが、米国のTikTokデータを閲覧していることを窺わせる証拠がいくつも露わになっています。バイトダンスが中国政府のために、米国人の個人情報を収集していると考えるのはナンセンスなことで、マーケティングや開発などの業務のために閲覧をしたのだと思いますが、バイトダンスとTikTokはここに甘さがあったと言わざるを得ません。

チョウCEOは「米国人の個人情報が中国政府に渡ったことは一度もない」と言うに留まり、中国バイトダンスが米国データにアクセスしているかどうかについては言明をしませんでした。そして、「対策を強化する」と答えるに留まりました。

この個人情報の国外輸出禁止は、私たちにも関わってくる問題です。2021年には、LINEの個人情報が韓国サーバーに保管されていることが発覚して問題になりました。LINEは「ユーザー感覚、気持ち悪いとかそういうことへの配慮が足りなかった」として、国内サーバーに閉じる施策を進めることを約束しました。

日本の場合は、「気持ち悪いなどのユーザー感覚」などの問題かもしれませんが、欧州はGDPR(一般データ保護規則)を制定して、個人情報の欧州外への持ち出しを明確に禁じています(厳密には、GDPRと同等のセキュリティー、運用がなされている場合は、許可制で国外に保存可)。中国も大手ネットサービス運営企業に対し、中国外への持ち出しをしない交渉を進めており、アップルは2017年に貴州省に大規模なiCloudデータセンターを建築して、中国人専用のiCloudとして運用を始めています。

米国はこれまで米国人のデータが国外に持ち出されるという事例が少なかったため、TikTokの問題により、国外持ち出し禁止の法制化などが検討されていくことになるかもしれません。世界は、自国の個人データを海外に持ち出すことを禁止する流れになっています。

SNSでは未成年への悪影響を完全には防止できない

公聴会では、3)の未成年に与える悪影響についても質問が集中をしました。自殺や自傷行為、摂食障害を肯定的に取り上げる動画が拡散をしており、未成年に与える悪影響が深刻だというものです。また、ブラックアウトチャレンジについても指摘がありました。故意に窒息をして失神をすることに挑戦する動画です。ペンシルバニア州の10歳の少女がこのブラックアウトチャレンジを行い、死亡する事故が起きています。

これもTikTokにとっては、突かれると答えに窮する問題のひとつです。不適切動画の主なものはポルノと暴力で、これはAIによりフィルタリングをすることが可能で、すでに抖音やTikTokでは取り入れています。ポルノの場合は肌の露出割合を測定し、暴力の場合は人の動きを判別することで、ほぼすべてを抽出することができます。このようなAIが抽出した動画を人が見て判定して、公開するかどうかを決定しています。

しかし、公聴会で問題になったような動画は、このような画像解析ではなかなか抽出することができません。しかも自殺を扱う動画であれば、自殺を防止するための動画なのか、自殺を奨励する動画なのかは、人でも簡単には判別できません。自殺を防止するという建前で、実は自殺を煽っている動画というものもたくさんあるからです。このような高度な判断を投稿されたすべての動画に対して行えというのは無理な話で、どのように解決できるのかがまったく見えません。さらには、言論の自由との兼ね合いも出てきます。

チョウCEOも「18歳未満の利用者に対して、1日60分などの利用時間の制限を設けるなどの対策をしている」と答えるに留まりました。

このような問題に対して、こういう疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。「このような未成年に対する悪影響は他のSNSでも同じことであり、TikTokだけの問題ではないのではないか?」というものです。まさしく、その通りです。日本の小中学校でもSNSの危険性を教え(メリットについても教えている)、SNSの利用には慎重になるように指導をしています。

しかし、ショートムービーはインパクトが強く、このような影響力が他のSNSに比べて強く出るという問題があります。

パニックを煽るSNS

4)の報道に与える悪影響が、まさにこの問題です。公聴会では議論にのぼりませんでしたが、米国のネットでは盛んに議論をされている問題です。その典型例が、2月3日に、オハイオ州で起きた貨物列車の脱線事故です。この貨物列車には塩化ビニールなどの有害な化学物質が積載されていて、鉄道会社は貨物列車が爆発する恐れがあるとして、環境中への制御放出を行いました。さらに意図的に着火をし、燃焼させることで処理をしようと試みました。この燃焼により、ホスゲンなどの猛毒物質が発生することが懸念されるため、半径3kmの住民に避難指示が出されました。

かなり深刻な事態ですが、幸いなことに被害範囲は狭く、人的被害もありませんでした。

しかし、TikTokでは、居合わせた人が撮影した、燃焼させている映像が拡散をしました。それはまるでキノコ雲のような映像で、「#オハイオチェルノブイリ」というハッシュタグがつけられていました。このキノコ雲は、鉄道会社が環境へのインパクトを最小限に抑えるために制御下で意図的に燃焼させたものですが、動画を見ただけの人は、爆発が起きたかのように受け止め、しかもオハイオチェルノブイリというハッシュタグを見て、不安になったりパニックになった人もいたということです。

このような重大事故が起きた場合、メディアであれば、いらずらに不安を煽るのではなく、正確な情報とともに報道をしますが、TikTokの場合、最もインパクトのある部分だけが瞬時に拡散をしてしまいます。

報道機関は真実であるからと言って、なんでも報道していいわけではありません。社会的な責任があるために、社会への悪影響が考えられる内容については報道を控えるという判断が必要な場合もあります。例えば、誘拐事件については人質の安全を優先して、事件そのものを報道しないということもあります。しかし、このような報道規制は常に言論の自由と衝突をするため、法制化をするのは自由社会では難しく、政府や当局による「報道自粛のお願い」というお願いベースで行われることになります。

TikTokは報道メディアではありませんが、このような報道自粛の抜け道になってしまう可能性があります。そのため、TikTokを米国企業に売却をして、米国のルールに従わせる必要があるという意見です。

チョウCEOは、「TikTokはシンガポールとサンフランシスコに本社を置く企業で、当然米国のルールに従って運営をしている」と反論をしました。しかし、TikTokがこのような不適切な報道映像を排除することは、先ほどの未成年に対する悪影響と同じく難しいことで、簡単なことではありません。

米国議会のTikTokに対する攻撃には理不尽な面もあり、元が中国企業であるということが攻撃を許す要素になっていることは確かですが、TikTokが大きな影響を持つようになり、社会的な責任を果たすように求められ始めていることも事実です。

Next: TikTokを起業した張一鳴はどんな人物か

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