筆者が下手に解説するよりも、記事の重要部分をそのまま翻訳して掲載する。
ダリオは、アメリカの安定性に決定的な影響を及ぼす5つの要因があると指摘し、それぞれを次のように解説している。ニュース誌『タイム』に掲載された記事だ。
※参考:Why the World Is on the Brink of Great Disorder – Time(2023年6月26日配信)
・なぜ世界は大混乱に瀕しているのか
1. 金融・経済力
米政府の巨額の赤字を補填するために、米財務省は大量の国債を売らなければならなくなる。だが、米国債に対する十分な需要がない可能性が高い。そうなれば、金利が大幅に上昇するか、「FRB」が大量にお金を刷って国債を買い、お金の価値が下がることになる。こうした理由から、債務・金融情勢は今後1年半の間に、おそらく非常に大きく悪化する可能性がある。2. 国内秩序の力
いくつかの国、とりわけアメリカでは、ポピュリスト的な過激派の割合が増え(右派の約20~25%、左派の約10~15%が過激派)、超党派的な穏健派の割合が減っている。超党派の穏健派は依然として多数派ではあるが、人口に占める割合は減少しており、彼らは何が何でも戦って勝利しようという意志ははるかに薄れている。歴史を研究していると、このように双方のポピュリズムが高まり、対立が激化するのは、経済状況が悪いと同時に貧富の差や価値観に大きな隔たりが存在するときに繰り返し起きていることがわかる。そのような時、人口のかなりの割合が、妥協するよりも自分たちのために戦い勝利することを誓うポピュリストの政治指導者を選んだ。
私は自著の中で、米国が今置かれている状態を、ある種の内戦や国内秩序の変化の直前に訪れる「内部秩序サイクル」のステージ5(「悪い経済状況と激しい対立があるとき」)と表現した。それが今起きていることだ。
今後1年半は、ますます激しい選挙期間となり、左派と右派の対立がより鮮明になる可能性が高い。上院の33議席、大統領職、下院の支配権が多くのポピュリスト候補によって争われ、経済状況も悪くなる可能性が高いため、戦いは激しさを増し、民主主義国家を機能させるために必要なルール遵守と妥協の両方が真に試されることになるだろう。
法律や政治制度に対する敬意が低下する一方で、何が何でも勝つという戦いへの動きが見られるだろう。ドナルド・トランプとその支持者たちが司法制度と戦争しているように、あるいは彼とその支持者たちが言うように、制度が自分に対して戦争しているように。
いずれにせよ、今後1年半の間に一種の内戦に突入することは明らかだ。私にとって最も重要な戦争は、超党派の穏健派とポピュリストの極端派との戦いである。民主党と共和党が唯一合意できること、それはほとんどのアメリカ人も合意していることだが、反中国であることだ。
3. 国際世界秩序勢力
国内の政治的緊張が中国への攻撃性を高める可能性が高いため、米中間の対立は激化する可能性が高い。というのも、アメリカではほとんどの人が反中であり、選挙に立候補する人は、選挙の年にはお互いに中国を打ち負かそうとするだろうからだ。中国とアメリカはすでに、全面的な経済戦争であれ、最悪の場合は軍事戦争であれ、ある種の戦争に危険なほど近づいている。来年は台湾でも重要な選挙がある。台湾はすでに米中選挙の火種となっており、米国が後押しする台湾独立の動きは、米中対立がさらにあからさまになる可能性を考慮する上で注視すべきものだ。
台湾やロシアへの対応、投資への制裁など、争っている問題はいくつかあり、双方は戦争の準備をしている。戦争になる運命にあると言うつもりはないが、何らかの形で大きな衝突が起こる確率は危険なほど高いということだ。
4. 自然現象
自然災害を正確に予測するのはもちろん難しいが、気候変動により、今後5年から10年の間に、自然災害はさらに悪化し、被害も大きくなる可能性が高い。また、世界は来年にかけて気候サイクルのエルニーニョ期に入る。5. テクノロジー
私たちはテクノロジーに何を期待できるのだろうか?自然の営みと同様、正確に知ることは難しいが、生成AIやその他のテクノロジーの進歩が、使い方次第で大規模な生産性向上と大規模な破壊の両方を引き起こす可能性を秘めていることは間違いないはずだ。確実に言えることは、これらの変化は大きな破壊力を持つということだ。具体的にどのような展開になるかは私の知るところではないが、過去数十年間に慣れ親しんだ秩序ある方法で物事が動くと思い込んでいる人々は、これから起こる変化に衝撃を受け、おそらく傷つくことになるのは間違いない。
この変化をいかにうまく管理するかが、すべての違いを生むだろう。もし指導者たちが争いの傾向から抜け出し、その代わりに協力することに集中することができれば、多くの人々にとってより良い世界を作るために、このやっかいな時代を乗り切ることができるに違いない。
以上である。この記事は、いま悪化しており、世界の混乱を拡大している「ガザ戦争」が始まる前に書かれたものだ。米国内で「ガザ戦争」は、イスラエルを強く支持し武器支援をしているバイデン政権に対する憎しみと反発を強め、米国内の対立に油を注ぐ結果になっている。