大阪ソーダに投資するべきか?
これまでも述べたように、肥満関連ビジネスは高い成長力を持っています。
抗肥満薬市場は,2023年に21.16 億米ドルの市場価値から、2036年までに85.60億米ドルに達すると推定され、2024-2036年の予測期間中に15%のCAGR(年平均成長率)で成長すると予測されています。
世界の抗肥満薬市場調査より引用
この成長力が、そのまま大阪ソーダの恩恵となるか?と考えると必ずしもそうではないといえます。理由はトップシェアとはいえ、そのほかにも40%近くの競合他社がいることや、その他の事業の業績の変動も考慮するとイーライ・リリーなどの医薬品メーカーと同等の成長というわけでは無いと言えるでしょう。
また、この成長性について、IR担当者に直接問い合わせたところ、医薬品精製材料はある程度繰り返し使用可能な薬剤だそうです。直接的な原料ではないため医薬品の売れ行きと1対1ではないが、ある程度の連動性はある、と回答を得ました。この辺りはしっかりと認識しておくべきです。
これを踏まえて、最後に株価の推移を見てみましょう。

大阪ソーダ<4046> 月足(SBI証券提供)
長期で見ると目先はやや下落しているものの、株価は上昇しています。
過去10年の平均PERは10倍前後であり、24年3月26日終値時点のPERは33.3倍です。すでに、肥満関連で期待が高まっている状況です。
ここで考えたいのは、工場不具合による一時的な影響です。
今期は基礎科学薬品で営業利益で約42億円の生産トラブル費用を織り込んでいます。
出典:23年3月期決算説明資料
この42億円を一時的要因と考え、当期純利益に足し戻してみます。(やや乱暴ですが計算の簡略化のために、経常利益は無視します)
ざっくりと法人税が35%であると仮定し、仮の当期純利益を算出すると、約27億円になります。したがって工場の不具合がなかった場合の、予定当期純利益は102億円となります。
これを2月26日時点の終値の時価総額、2,630億円で割った場合、一時的要因を取り除いたPERは25.7倍となります。やや強引な計算であるものの、見た目のPERよりは割安です。
これは私の意見ですが、肥満症や糖尿病患者の世界的な増加と、その治療薬の原材料に対する高いシェア・その模倣されにくさを考えれば、今後まだ成長余地があるかもしれません。
また、肥満症のトピックがなくともサプライチェーンのコントロールが上手な会社です。これが売上が大きく拡大せずとも、利益を拡大してきた要因と考えます。
一方で、肥満薬の恩恵をどれくらい受けるのか?というリスクはあります。
大阪ソーダがイーライ・リリーやノボ・ノルディスクに医薬品精製材料を供給している事実は(IRへの問い合わせを含めて)確認できなかったものの、ヘルスケア事業の主力である医薬品精製材料が糖尿病治療薬製造の精製工程で使用されていることは事実です。
同社がこの領域で高いシェアを持っていることを踏まえると、恩恵は受けるもの、と考えるのが自然でしょう。
しかし、それら医薬品メーカーと同等の利益を得られるわけではありません。
それは、大阪ソーダの医薬品精製材料が繰り返し利用可能な医薬品であるためです。イーライ・リリーなどに比べると、やや成長力で見劣りするケースも想定すべきです。
またご覧の通り株価は上昇し、急速に注目が集まっている企業です。今後の株価の動きはわかりませんが、高値づかみは避けたいものです。
今後株価が伸びるケースとして想定されるのは、利益(EPS:1株あたり当期純利益)の拡大です。株価はPER×EPSで求められます。すでにPERはすでに3倍近く上昇していますが、工場トラブルの問題が解決し、ヘルスケアセグメントの成長が加速すれば、EPSの伸び代はまだあると考えます。
総評は、「サプライチェーンを磨き上げニッチトップを確立している大阪ソーダが、外部環境の恩恵を受けて、成長フェーズに突入している」このような状況に見えます。
とはいえ繰り返しになりますが、注目度が高い企業です。市場の様子やイーライ・リリーやノボ・ノルディクスの動向をみながら、慎重に投資判断することをお勧めします。
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『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2024年3月26日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。