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中央銀行デジタル通貨が駆逐するドル覇権。各国の導入状況と取り残されるアメリカの苦肉の策=高島康司

「デジタルドル」への反対と導入の困難性

周知のように「CBDC」は、デジタルウォレット間の受け取りと送金で決済が行われる。そのため、基本的にドルベースで、決済に数日も要する既存の送金システム、「SWIFT」が使われることはない。「CBDC」による決済の拡大にしたがって、当然「SWIFT」は放棄される方向に向かう。

そしてもし、このとき「デジタルドル」が導入されず、依然としてドルだけが時代遅れの決済システムを採用していたとすれば、決済通貨としてドルが使われなくなることは間違いない。すでに現時点で、決済通貨としてのドルの使用は減少する方向にあり、国際決済全体の57%程度にまで落ち込んでいる。

これは、ウクライナ戦争以後に加速した決済通貨多様化の動きを反映した流れである。エネルギーと食料生産大国であるロシアが、欧米の非常に厳しい経済制裁下にあるので、ルーブルや人民元、そしてルピーなどを使用して、ロシアとの取引がさかんになっているのだ。この傾向に合わせて、グローバルサウス全体でも決済通貨の多様化が急速に進んでいる。ドルが使われるケースは確実に減少しつつある。

いまでもこのような状態だから、もし「デジタルドル」の導入が遅れると、ドル離れのスピードは加速することは間違いない。

たしかにいま、アメリカ政府、及び「FRB」は「CBDC」としての「デジタルドル」の導入の可能性を検討していることは事実である。冒頭に書いた、「BIS」による7つの中央銀行による「CBDC」の実証実験に「FRB」も参加していることがその証左である。

しかし、共和党を中心にして「デジタルドル」に対する拒絶感は非常に強い。「ヘリテージ財団」と並ぶ共和党系のシンクタンク、「ケイトー研究所」は、昨年「CBDCのリスク~中央銀行デジタル通貨が採用されるべきではない理由」というレポートを出し、そこで次のように述べている。

簡単に言えば、CBDCは、銀行秘密法の制定と第三者法の確立以来、金融のプライバシーに対する唯一最大の攻撃となる可能性が高い。

CBDCがもたらしうる自由への脅威は、プライバシーへの脅威と密接に関係している。多くのデータを手にすることで、CBDCの導入で政府は、市民の金融活動をコントロールすることができる。

政府は長い間、ある人の金融資産を凍結することは、その人を社会から締め出す最も効果的な方法の一つであると認識してきた。しかし、CBDCは、市民と政府との間に直接的なラインを確立することによって、政府にとってそのプロセスをより簡単かつ迅速にすることができる。

さらに、次のようにもある。

CBDCのプログラム機能は、人々が特定の商品を購入することを禁止したり、購入金額を制限したりすることを意味する。例えば、政策立案者は、夜間のアルコール購入を制限したり、アルコール関連の犯罪を犯した人の購入を禁止することで、飲酒を抑制しようとすることができる。CBDCは、政府機関や民間セクターが目標とする政策機能をプログラムすることを可能にする。

周知のように、どの「CBDC」もブロッケチェーンのテクノロジーを基礎にしている。すると、「CBDC」のすべての決済はブロッケチェーンに記録され、個人ベースで経済活動がすべて政府によって管理される可能性に道を拓く。また、「CBDC」は使用期限を設定し、特定の分野の消費行動を抑制したり、また拡大することもできる。この結果、「CBDC」はターゲットを細かく定めた経済政策が実施できるようになる一方、個人のあらゆる経済活動が政府によって管理されることにもなる。

「ヘリテージ財団」や「ケイトー研究所」のような共和党系シンクタンクは、これが個人の自由に対する侵害になるとして、「CBDC」の導入を断固拒否している。この強い拒絶の姿勢は、これらのシンクタンクに特有のものではまったくない。トランプの公約集である「アジェンダ47」や、その実施マニュアルである「プロジェクト2025」にも「CBDC」の排除は明記されている。今年の11月に行われる米大統領選挙では、トランプが勝利する可能性は高い。個人の自由の保護を信条にするトランプ政権は、「CBDC」を完全に無効にすることだろう。その可能性は高い。

Next: 日本への影響は?「CBDC」のデジタルドルの排除は何を意味するのか…

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