いま考えたい「ダイキンの強み」とは何か?
ダイキンの好調を支える「販売網体制の強化」を理解するためには、空調機器の特性を理解する必要があります。
それは、設置サービスやメンテナンスなど購入後のアフターサービスが重要である、という点です。
他の家電は大型の物でも家に運ばれてくるのみ、小型のものは自ら持ち帰ることになります。しかし空調機器は据え付け工事が必要であり、その工事ができるディーラーを教育するという点でも時間と手間がかかります(これが参入障壁でもあります)。
ダイキンは、卸や量販店を通さない自前の販売網、サービス網を作ってきました。
それは、元々国内で総合電機メーカーに対抗するために自分たちで直販ルートを作ったことが始まりです。
販売店に対し「こう説明して、こう売ってください。メンテナンスはこうやってください」と直接指導することで、自社の製品を売りやすい環境を整えてきました。
この仕組みを海外にも展開することで完成したものが、世界中に広がる強固な販売網です。
24年の好調を下支えするのは、こういった販売網の強化・育成に加え、買収した販売会社の良い影響があり、自社の販売予想が市場予想を大きく上回っているのです。

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出典:統合報告書 環境配慮型エアコンの累計販売台数
また、空調は地域によってニーズが異なります。
日本では省エネや快適性が求められていますが、欧州ではデザイン性を重視したり、直接風に当たることを嫌う特性があります。アジアでは冷房のみニーズが高いなど、その土地の気候や文化によって空調に求める性能が異なるのです。
そこでダイキンは、一極集中生産ではなく、販売する土地の近くで調達・開発・生産を行う体制を構築しています。これによって各地域の天候や景気変動による需要の変化にタイムリーに対応することができます。
さらに、空調機器を基本部品と機能部品の二つに分けることで、開発スピードを確保しながら、市場ごとの異なるニーズへの対応することができる商品開発体制を確立しているのです。

出典:統合報告書
ダイキンは、地域別のニーズに合わせた製品開発を行う戦略を「市場最寄化生産」と呼んでいます。
今期は24年4月に稼働したメキシコの新工場が米国などに向けて高付加価値商品を生産します。欧州ではポーランド工場が24年10月から稼働する予定であり、生産体制の強化につながると予想されています。
こういった理由から、25年3月期の決算見通しは前向きなものになったと考えられます。
ダイキンに投資すべきか?
再度株価の動きを見てみましょう。

ダイキン工業<6367>日足(SBI証券提供)
短期的に見れば、投資の旨みは少なくなってしまったと言わざるをえません。
1株あたりの利益(EPS)は889円から912円に上昇しましたが、株価上昇によりPERは21倍前後から27倍前後に上がっています。
これまで説明した通り、ダイキンの経営の強さが滲み出るような決算内容だったことが大きな要因でしょう。
しかしリスクがない訳ではありません。
- 金利高の影響で住宅市場が低迷しているが、利下げすればすぐに市況が回復する訳ではない
- 化石燃料を使用しないヒートポンプ空調は燃料価格の高騰が沈静化したことから従来商品に代替されている
これが前期3Qにおいてダイキンが苦しんだ理由です。
しかし、市場の需要自体はやや軟調であることから、この状況は大きく変わっていないと考えられるでしょう。こういったネガティブ要因を頭に入れながら、投資のタイミングを探ってみるのが良いでしょう。
ではホルダーは売るべきか?と考えると、
私個人の意見ですが全く売る必要はないと考えます。
それは中長期的な視点で考えると、ダイキンの成長に期待できるからです。
確かに目先、金利高やインフレ、ヒートポンプの需要減少などの悪影響があります。
しかし
- 地球温暖化による空調需要の増加という外部環境の追い風
- カーボンニュートラルへの挑戦
- 経済成長が続くインドの一大拠点化
こういった長い目線の成長トピックがある企業です。目先の悪影響を成長要素が上回っていく未来を想像します。
最後に中期経営計画であるFUSION25と、実績を比較してみましょう。
24年3月期の売上実績は4兆4,000億円ですから目標を大幅にクリアしています。
営業利益目標が4,000億円に対し、実績3,921億円です。わずかに届かなかったもののほぼ同水準です。

出典:FUSION25
26年3月期には売上4兆5,500億円、営業利益5,000億円の目標を掲げています。
売上目標は、今期中に達成するかもしれません。
いかに研究開発や設備投資などの利益圧迫要因と、売上成長をコントロールするかが今後のカギとなりそうです。
また、経営陣の人事変更も発表されています。1994年から会社の指揮をとってきた井上 礼之 会長が名誉課長へ、会長職には十河政則現社長が、社長職には竹中直文現専務がつきます。
井上次期名誉会長は海外展開を加速させダイキンを成長させた重要な人物です。
時には周囲の反対を押し切って中国進出を拡大させるなど強烈なリーダーシップを持っていました。NewsPicksの記事ではそんなリーダシップを感じさせるエピソードがあります。
技術系中心に役員会で猛反対に遭ったんです。それで、彼らと喧嘩したんです。「お前らクビにするぞ」と言うて(笑)。結局、「あの広い中国で、ダイキン1社でどうやってインバーターエアコンを普及させるんだ」と質問をしたら、彼らも見方を変えました。
89歳という年齢の問題もあり、第一線は退いて、今後は経営陣のサポート役に回るようです。
新しく社長となる竹中氏は生産や営業部門を担当したのちに2021年から専務に付いていました。また、今回の経営陣の変更は女性役員が増加するなどの変化もありました。
一連の人事について、
- 更なる成長に向けた取締役会を実現する
- ダイバーシティ経営の高度化
- 中期経営計画 FUSION25の達成に向けたもの
こういった目的を述べています。
新しくなった経営陣には、今後のダイキンの成長を加速させることに期待したいと思います。どうにか井上会長が抜けた穴を埋めるような経営を行っていただきたいものです。
再度申し上げますが中長期的には、強みの他の企業には真似できない販売網や市場最寄化生産を武器にしながら、成長していく未来を想像します。
今後もチェックしていきたい企業の1つだと思います。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
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』(2024年5月14日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。