ドル円はついに161円台後半にまで円安が進みました。この大幅円安は通貨価値の低下を通じて国民の生活を貧困にし、賃上げを棒引きします。「円安は全体でみればプラス」の認識は、もはや通用しません。自国通貨安がプラスなら、アルゼンチンやトルコは世界で躍進していなければなりませんが、現実は経済危機にあります。日本もこのままでは経済危機に陥ります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年7月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
日本円、バブル後最安値を更新
6月26日のニューヨーク市場でドル円はついに160.86円まで円安が進み、90年4月のバブル後円最安値を更新、プラザ合意時以来の円安水準となりました。
当局は為替介入の可能性を示唆して市場をけん制しますが、その後161円台を付けるなど円安に歯止めはかかりません。購買力平価から見ると1ドル100円あたりが均衡値となりますが、この大幅円安は通貨価値の低下を通じて国民の生活を貧困にし、賃上げを棒引きします。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)
この円安を招いたことに対して、政府日銀の責任は重く、金権バラマキ政治をしてきた政府が財政赤字の拡大、利払い費の制約から大規模緩和の継続を求め、この円安をもたらした面を無視できません。
円安で財界に媚びを売る政府は161円を超えても手を打てません。自らの失政で国民生活を圧迫する政府日銀は国民に責任をとって円安を是正する義務があります。
金利を払えない放漫財政のツケ
アベノミクス以来、節度を欠いた財政運営を続けてきた政府は、70兆円弱の税収のもとで平気で140兆円の支出を続けています。
カネが権力の象徴であり、カネをばらまくことが、政治権力の維持拡大に不可避と考え、さらに「政治に金はつきもの」とうそぶいて、政党助成金から政策活動費、旧文書費など、税金を政治家の懐に移すことに熱心でした。
その結果、主要国で最悪の財政バランスを続け、財政赤字を拡大し続けてきましたが、ケインズ経済学の教えに反して、それでも日本の景気は一向に良くなりません。財政赤字が国民経済のためではなく、政治家の「生活費」に使われるなど「漏れ」が大きくなっている面もあります。また政府を支援する財界への「補助金」支出も多く、企業はこれをため込んでしまいます。
財政赤字の拡大、国債発行の増加に伴って、一般会計の中の「国債費」が大きくなります。それを日銀の低金利で金利負担を抑え、金利コストの「あまり」をほかの予算に充ててきました。
ところが、日本もインフレの波に巻き込まれ、長期金利が上がり始め、さらに物価目標達成から異常な低金利を維持できなくなりました。それでも政府から日銀に「利上げ待った」がかかります。
長年成長戦略をさぼり、アジア新興国に追い上げられる中で、日本の通貨円の価値は低下傾向にありましたが、そのうえ円につく金利を異常に低くしてきたために、円の魅力が一段と低下、価値が弱いうえに金利もつかない通貨は、今やトルコリラにも負け、世界でも最弱通貨になり下がりました。
これは人為的、政策的な円安です。その円安で円の価値が低下するに従って、日本の労働者は「ただ働き」を余儀なくされます。