トランプ当選で経済停滞へ
両候補の掲げる減税案を比較したい。『ロイター』(10月11日付)から引用する。いずれも専門家の試算である。
1)トランプ氏は、10年間で連邦政府赤字が3兆6,000億~6兆6,000億ドルの上乗せになる。
2)ハリス氏の歳出・減税案は、10年間の赤字予想は、4,000億ドル減~1兆4,000億ドルの増加で、赤字拡大幅はトランプ氏よりはるかに少なく、減少する可能性さえある。
トランプ氏は、何が何でも大統領に当選しなければならないという切羽詰まった発言をしている。責任ある「政治家」としていかがかと首を捻るような構想を発表しているのだ。財政赤字拡大にまったく無頓着な姿勢である。
それは、次のような構想を述べることで明らかになっている。
まず、輸入関税からみておく。トランプ氏は国内製造業の活性化を目指し、すべての輸入品に一律で10~20%の関税を課すとともに、中国製品については60%以上の関税をかける方針を示している。10月10日のデトロイトでの演説では、メキシコの国境を越えて輸入される全ての自動車に200%の関税をかけると述べた。一方、米国を拠点とする製造業者は研究開発税控除の対象とするとも述べている。
また、米国内で製品を生産する企業に限り、法人税率を現行の21%から15%に引き下げるとしている。2017年から2021年の大統領在任中に法人税率を35%から21%に引き下げており、今年6月にはさらなる引き下げを宣言した。
トランプ氏が、こういう「荒っぽい」経済政策をぶち上げているのは、経済に対する基本的知識が欠如している結果でないかという「酷評」も飛び出しているほどである。
トランプ氏は、関税を魔法のような力があると信じているようだ。トランプ氏が9月に講演した際、「私は関税で脅して戦争を止めた」と豪語し、「重要な2つの国との戦争を止めた」と発言するほど、関税に絶大な信頼を寄せている。だから、中国製品に60%以上、その他同盟国を含めた国からの輸入品に最大20%も課税すると明言している。
さらに驚くべきことは、ドル基軸通貨体制から離脱しようとする国へ、100%の関税を課すことも示唆しているのだ。『ロイター』(10月9日付)が報じた。
理論無視の経済政策で失敗
こういうトランプ発言を聞かされると、失礼だが氏へ根源的な疑問を持たざるを得なくなるのだ。
関税とは、輸入品に課される税金である。トランプ氏は、この税金が外国人負担と思っているようだがそうではない。輸入した国が、消費者負担として価格へ上乗せされるものである。ただ、高関税率によって輸入を防げるメリットはある。
トランプ氏は、高関税率と輸入減により、対外的な経常収支の赤字が改善すると考えているのだろう。しかし、経常赤字は貿易収支以外の項目からも構成されている。米国への資本流入と密接に関係している。
海外資本が米国へ流入する一因は、外国人が資金を米国で運用したいと願っている結果である。トランプ氏自身も、この状況が続くことを強く願っている。大量の米国債の買い手には、海外資金が控えているのだ。