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なぜシリアのアサド政権はあっさり崩壊したのか。日本では報道されない第三次世界大戦の兆候=高島康司

「アスタナ合意」では、ロシア、トルコ、イランがアサド政権のシリア全土の統治権を認め、内戦を激化させない合意がなされていたが、トルコがこの合意に違反し、反政府勢力の「HTS」がシリア都市、「アレッポ」の攻撃を許した。この攻撃はトルコの支援もあったようだ。

しかし、この作戦は決してシリアを完全に転覆させることを目的としたものではなかった。結局は、「HTS」を中心とした反政府勢力が、シリア政府軍が初期の侵攻に対応する力がどれほど弱いかを目の当たりにしたため、一挙に他の地域に侵攻する決定をしたようだ。当初は限定的な攻撃を意図していたのだ。

また、イスラエル、アメリカ、トルコ、その他の国々がシリア政府軍の弱さを好機と見て、さまざまな潜伏工作を行い、またシリアの将軍や軍部の有力者たちに秘密裏に働きかけて、アサド大統領を事実上降伏させるか裏切らせるかするよう仕向けたこともアサド政権の崩壊を早めた。そのよう背景もあり、「HTS」の攻撃の範囲は当然ながら拡大した。

また、進歩派とされるイランのペゼシュキアン新大統領は、イラン軍がシリアで戦うことを許可しなかったようだ。すでにイランの武装勢力は6000人も死亡しており、膨大な数の戦闘員が新たに犠牲になる内戦には消極的だった。

そしてロシアも、軍の掌握も改革もできないアサド政権を見限った可能性が高い。ロシアは「HTS」と事前に協議し、シリア西部の地中海沿岸にあるロシア海軍と空軍の2つの基地をアサド政権崩壊後も温存する合意が成立していたようだ。

このように、シリアの後ろ盾になっているロシアやイランが事前に協議して、アサド政権を崩壊に追い込んだというような計画性はなさそうだ。トルコ、イスラエル、アメリカなどの支援を得たと思われる反政府勢力の「HTS」がイラクとの国境の都市、「アレッポ」を攻撃すると、シリア政府軍は予想以上に弱かったので、そのまま首都のダマスカスまで進軍した。すると、アサド大統領は亡命して政権はあっさりと崩壊してしまったということだ。

家庭的なアサド、新たな内戦を回避

このように、今回のアサド政権の崩壊はあっさりと進んでしまったわけだが、そこにはアサド大統領自身の決断も大きくかかわっているようだ。アサド大統領は国民の生命が犠牲になることを避け、新たな内戦を回避したようだ。

実はアサド大統領は、ロンドンで研修した眼科医である。イタリア人の夫人はロンドンの銀行の投資アナリストで、2人はロンドンで出会っている。本来はアサドの兄が大統領になるはずで、そのための帝王学も父からたたき込まれていたが、兄は交通事故で死亡してしまった。そのため、ロンドンの眼科医としてキャリアを歩むはずだったアサドが大統領になったのである。アサド自身の意思ではまったくなかった。

アサドは愛情深い家庭人として知られている。今回の「HTS」が占領したダマスカスの大統領宮殿からは、アサドの家庭生活が分かる写真が発見され、公開されている。

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また、アサドのアマス夫人が友人に宛てたメールがハッキングされ、公開されている。ここで「あなた」というのはアサドのことである。

「夜、空を見上げると、あなたのことを考え始め、自問するの。なぜ?なぜあなたを愛しているのかしら?考えながら微笑むの。だって、その理由は尽きることがないもの」

また、アサド大統領の電子メールは、戦争の初期に反体制派によってハッキングされたことがあった。そこには夫人に向けた次のようなメールがあった。「もし私たちが一緒に強くなれば、一緒に乗り越えられるだろう…愛している…」

このように見ると、アサドは家庭人であり、一般の独裁者のイメージとは根本的に異なる人物であるようだ。アサド大統領はモスクワで無事であることがロシア外務省によって確認されたが、プライベートな生活に戻り、ロシアで何らかの眼科クリニックを開業するつもりであるという。慈善活動も行うとしている。

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