トヨタの長期的な強み
短期的には厳しい時期が来るかもしれませんが、長期投資家としてはその先も考える必要があります。改めて、トヨタの強みは何でしょうか?
一番の強みは、やはりその非常に高い効率性です。皆さんもご存知の「トヨタ生産方式」です。ジャストインタイムや「カイゼン」といった、トヨタのDNAに組み込まれた生産活動の改善を、あの規模で徹底的にやり続けているのが最大の強みです。
「カイゼン」とは、生産工程のわずかな非効率も見逃さず、業務オペレーションを改善するなどしてコストを下げていく取り組みです。これが現場の末端まで文化として浸透しているのです。なぜトヨタにできて他の会社にはできないのか?これは非常に本質的な問いです。
かつてGMと合弁会社を作り、アメリカ人にトヨタ生産方式をやらせてみたそうですが、うまくいかなかったといわれています。やはり現場で働く人間のレベルの高さや、日本的な現場主義が影響しているのかもしれません。在庫を減らすジャストインタイム、分かりやすい表示をする看板方式など、仕組み自体はありますが、それを行うのは人間であり、日本人や日本人の指揮する現場でないと難しい側面があるのかもしれません。これは自動車だけでなく、半導体製造など他の分野でも言われることがあります。
冷静に考えると、トヨタはEVだけでなく、ハイブリッド車、バイオ燃料車、水素など全方位で技術開発を進めています。そして、その販売地域はグローバルに渡っています。にも関わらず、世界規模でこの効率化、サプライヤーと一体となった効率推進ができているというのは、ある意味奇跡的なすごみだと思います。
他の自動車メーカーと比較した営業利益率を見ると、トヨタは約10%前後ですが、GMやフォルクスワーゲンは約7%弱、フォードは3%弱といった水準です。日本の他社でも、スズキやスバルが10%台の会社もありますが、業界最大規模でこの利益率を叩き出しているのはトヨタぐらいです。ホンダは約7%弱です。
これだけの規模で高い利益率を維持できるということは、価格競争力が高いということになります。同じものなら少し安く売ることもできますし、同じ値段ならより多くの利益が残ります。この残った利益を、次の自動車開発や技術開発に投じられるのがトヨタの大きな強みと言えるでしょう。
<EV戦略とハイブリッド技術の優位性>
EVに関しては、経済合理性の面でどこまで浸透するかが課題です。ユーザー視点、インフラ視点の現実解としては、プラグインハイブリッド車に注目が集まっています。
そもそも電気自動車は電池が高価です。現状、補助金があるからある程度価格競争ができていますが、補助金がなくなると厳しくなるでしょう。テスラやBYDの業績が良いように見えるのは、こうした補助金のおかげという側面もあるのです。
もしこれから一時的に景気が悪化し、関税の影響などで自動車業界が厳しくなったとしても、トヨタは体力(潤沢な利益と規模)があります。売上が落ち込む中で、他の会社が自滅的に厳しくなり、必要な能力を失っていく可能性があります。特にガソリン車やハイブリッド車の世界では、トヨタと他社との差がさらに開いてくるのではないでしょうか。
このじり貧の状態が続いた時にどこが勝ち残るかと考えた場合、やはりトヨタだろうと思います。需要が落ち込んだ後、車を買い替える必要が出てきて市場が回復した際に、トヨタのシェアが上がっているという状況も想像できます。
トヨタは市場がどう転んでも良いように全方位で準備を進めています。長期的にEVが進んだとしても、全固体電池の開発なども着々と進めており、抜け目のない強さがあります。
トヨタはハイブリッド車を実用化し、その技術は未だに他社が真似できていないと言われています。ホンダや日産もハイブリッド車を出していますが、トヨタには及ばない部分があります。
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