今回は、皆さんがニュースで頻繁に耳にする金利とインフレ――これらが株式市場にどのような影響を与えるのかについて、初心者の方にも分かりやすくお話ししたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
FRBの金融政策と株価の基本的なメカニズム
株式市場を大きく動かす要因の1つに、FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策があります。FRBはアメリカの中央銀行のような存在で、政策金利(FFレート)を決定する機関です。なぜアメリカかというと、世界の株式市場の約6割がアメリカ株で占められており、その動向が世界全体に大きな影響を与えるからです。
では、その基本的なメカニズムから見ていきましょう。
金利が下がると株価は上がるという法則があります。過去には、トランプ大統領がFRBのパウエル議長に金利引き下げを迫ったというニュースもありましたが、これも金利を引き下げることで株価を上げられると考えていたからです。そして、実際にそのように動くことが多いのです。
なぜ金利が下がると株価が上がるのでしょうか? 大きく3つの理由があります。
【運用資金が借りやすくなる】
金利が低いと、企業や個人は低いコストでお金を借りることができます。借りられたお金は、その一部が株式市場に流れ込み、株価を押し上げる傾向があります。
【景気刺激策となる】
金利が下がることは、経済全体への刺激策でもあります。例えば、住宅ローンが借りやすくなれば、家を建てる人が増え、建設業者などが潤い、経済全体が活発になります。
【株式の価値計算における割引率が下がる】
これは少し難しい話ですが、株の価値を計算する際に使われる割引率が下がると、将来得られると見込まれる利益の現在価値が相対的に高く評価されます。特に、PER(株価収益率)が高い成長株の価値が上昇しやすい傾向にあります。
このように、様々なメカニズムを経て、金利が下がると株価が上がるという関係が成り立っているのです。
<実際の株価と政策金利の動きに見る相関性>
この金利と株価の関係は、実際の市場の動きを見ても明らかです。
直近10年のアメリカの政策金利(FFレート)とS&P500株価の推移を見てみましょう。
- コロナ禍(2020年): 景気悪化を受けて株価は一時的に大きく下がりましたが、FRBが政策金利をほぼゼロにしたことで、その後S&P500は急上昇しました。これはまさに「金利が下がると株価が上がる」という動きが如実に表れた例と言えるでしょう。
- 2022年: 一転して、上昇していたハイテク株が大きく下落する局面がありました。これは、FRBが政策金利を大幅に上昇させたためです。特に、PERが高い高成長株、いわゆるテック株が強く影響を受けました。
- 2023年後半〜現在:その後、政策金利はピークを打ち、わずかですが下がり始めました。これを見越して、株価は再び大きく持ち直しています。
このように、数ヶ月から1年程度の短期・中期的なスパンで考えると、株価はアメリカの政策金利の動向に大きく左右されることが分かります。だからこそ、多くの短期・中期トレーダーは、FRBの政策金利に非常に注目しているのです。