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長期投資家が知るべきFRBの狙い〜金利とインフレが導く株価トレンド=栫井駿介

FRBの「2大目標」:政策決定のロジック

では、FRBはどのような基準で政策金利を決定しているのでしょうか?

彼らには、金融政策を決定する上での明確な2大目標があります。それは、物価の安定と雇用(景気)の安定です。

これらの目標を達成するために、FRBは金利を上げ下げするわけです。

<物価の安定とは?金利との関係>

物価が上がりすぎる(インフレが急激に進む)と、困る人たちが出てきます。例えば、年金生活者や貯蓄を取り崩して生活している人、あるいは低収入の人たちは、物価が急激に上昇すると生活が苦しくなります。

なぜ物価が上がりすぎるのでしょうか?1つの大きな要因は、金利が低すぎることです。金利が低いと、人々はお金を借りやすくなり、市場に資金が溢れます。この余ったお金が、例えば金や原油といった実物資産への投機的な動きを加速させることがあります。物価が上がるのが確実であれば、低い金利でお金を借りて実物資産に投資すれば儲かる、という心理が働くためです。

このような投機的な動きが加速し、さらにインフレを引き起こしてしまうのを防ぐために、FRBは金利を引き上げます。基本的な考え方として、金利はインフレ率(物価上昇率)よりも高くなければ機能しない、という原則があります。もし金利が1%でインフレ率が5%であれば、1%で借りたお金を5%で値上がりする資産に投資すれば、簡単に4%分の利益を抜き続けることができます。これではさらに投機が過熱し、インフレを加速させてしまうため、FRBはインフレ率よりも金利が高くなるように調整するのです。

<雇用の安定とは?景気と金利のバランス>

一方で、FRBが金利を上げすぎると、今度は経済が鈍化するリスクが生じます。

住宅ローンの話で考えると分かりやすいでしょう。金利が高すぎると、家を買おうとする人は「今は金利が高いから、もう少し待とう」と考えます。そうなると、住宅建設が減り、関連産業の経済活動が停滞し、最終的には失業者が増えることになります。失業者が増えると、社会不安も高まる可能性があります。

そのため、失業率がある程度高まってきた場合には、FRBは逆に金利を引き下げて経済を刺激する必要が出てくるのです。

<インフレ率・失業率と株価の関係(短期的な視点まとめ)>

FRBのこの二大目標を踏まえると、株価に影響を与える経済指標の重要性が見えてきます。

  • インフレ率が上がる → FRBが金利を引き上げやすくなる → 株価にとってはネガティブ(マイナス要因)。
  • 失業率が上がる → FRBが金利を引き下げる可能性が高まる → 株価にとってはポジティブ(プラス要因)。

つまり、短期的な視点では、「インフレ率は低い方が良く、失業率は高い方が良い」という、一見逆説的な関係が株価には存在するのです。

現在の状況と潜在的なリスク:見過ごせない「トランプ関税」

2025年7月現在、インフレが一時期よりも落ち着きを見せ、金利も若干下がったことで、株価は持ち直しています。しかし、ここで注意すべきは、「これで問題は解決した」と安堵できない、ということです。

特に懸念されるのが、「トランプ関税」の再燃リスクです。輸入関税がかかるということは、アメリカ国内での輸入品の価格が上昇し、それが物価上昇(インフレ)に転嫁される可能性が高いということです。例えば、一律10%の関税がかかれば、物価が10%上がる可能性があります。

そして、先ほど説明したように、物価が上がれば、FRBは原則として金利をそれより高く保つ必要が出てきます。しかし、ここで矛盾が生じます。トランプ氏は関税引き上げを主張する一方で、FRBには金利引き下げを要求しているのです。

物価が上昇している状況で金利を引き下げれば、どうなるでしょうか? それは、さらなる物価の急上昇、いわゆる「物価の爆発」を招くことになります。まともな経済の視点からすれば、これは極めてリスクの高い行為であり、単純に金利が下がれば株価が上がるという状況にはなりにくいでしょう。

実は、アメリカでは1970年代後半から1980年代にかけて、オイルショックの影響で政策金利が10%を超えるような非常に高い水準で推移した時期がありました。この間、アメリカの株価はほとんど上がらず、一部の経済史家からは「株式の死」と呼ばれるほど不調な時期が続きました。

逆にITバブル以降、金利の水準が下がり続けたことが、米国株の長期にわたる好調を支えてきたとも考えられます。

こうした歴史を踏まえると、もしトランプ氏の関税政策によってアメリカ国内の物価上昇が続けば、FRBは金利を引き下げるに引き下げられなくなり、過去30年以上にわたる米国株の長期好調に、いったんの「踊り場」が訪れる可能性も、1つの仮説として考えられるのです。

Next: 長期投資家はどう活用する?金利とインフレを味方につける投資戦略は…

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