自社開発ソフトウェアを資産計上するルールの問題点
もう1つ、この「自社開発ソフトウェアを資産計上しなければいけないルール」が問題であるという理由を書いてみます。
一言で言うと、フレキシビリティに欠けるということに尽きます。インターネットの世界において、今年開発したソフトウェアを5年にわたって減価償却するというのは、フレキシビリティに欠けると言う以外の何者でもありません。
これだけ動きが早い業界で、5年間も同じソフトウェアを使い続ける保証などどこにもありません。例えば今年開発したサービスが、2年後にやっぱり駄目だとなった場合、3年分の減価償却分を終えていない資産がまだ残っていますので、サービスを終了させるという判断を躊躇したくなる経営者も多く出てくるでしょう。
一方で、開発した年にすべて費用計上できていれば、新たな支出はありませんので、ダメだと思われるサービスはすぐに停止することができます。
ガラケー時代に非常に上手くいっていたサービスで、スマホシフトに出遅れた企業を詳しく調べたことがあるのですが、大抵の場合、このソフトウェアの資産計上で非常に大きな頭痛を抱えていたことがわかりました。つまり本来であれば、ガラケー時代に作ったソフトウェアはすぐにでも捨ててスマホにシフトしたいにも関わらず、貸借対照表に資産計上されているためそう簡単にサービスを停止することができなかった、ということです。減価償却しつづけるか、特別損失を計上する必要があるからです。
このように、自社開発のソフトウェアも資産計上しなければならないというルールは、少なくてもインターネット産業においては非常に相性の悪いルールであり、国際競争力を失うだけではなく、迅速な経営判断を阻害しかねない大きな問題にもなると思っています。
日本で最も税金面で有利な投資はAbema TV型のコンテンツ投資
ここからは少し余談になりますが、日本でソフトウェアへの研究開発投資をすると税金面で大きな損をするという話を書きました。
このルールを1番うまく回避しているなーと思うのは、本人たちが意識されているのかどうかは分かりませんが、サイバーエージェントのAbemaTVです。
年間200億円もの投資をすると発表されていますが、これができるのは既存事業である広告代理店ビジネスやゲームビジネスが大きく利益を出しているからです。
それらの利益を内部留保しようとすれば、当然ですが法人税を支払うことになり、さらに法人税を支払った後に株主への配当までしなければなりませんので、税引前利益が非常に大きな額であっても、実際に内部留保できる金額はあまり大きくなりません。
もしそういう状況であれば、200億円という大きな投資をして、将来の事業を盤石にするためにお金を使いたいと考えるのは、決しておかしなことではないのではないでしょうか。
AbemaTVがうまいなと思うのは、200億円の投資の内、おそらくソフトウェアに対する投資よりも、コンテンツに対する投資の方が圧倒的に大きいため、上で述べたような税務上の不利な扱いをうける可能性が非常に低いと考えられるからです。
コンテンツへの投資の場合、少なくてもニュースやスポーツ中継と言った長期にわたってキャッシュフローを産まないものに関しては、資産計上をして減価償却をする必要がないのではないでしょうか。つまり税務上は、その年に一括で損金計上できることになります。
従って「税効率」という意味では、ソフトウェアの投資よりもコンテンツへの投資の方が、現場の日本の税務ルールを考えると圧倒的に効率が良いと言えるでしょう。
新経済連盟の皆様におかれましては、この「自社ソフトウェア開発費用の資産計上」というとんでもないルールを変えるべく、しっかりロビイングをして頂きたく思います。
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