「ヒーロー」を目指すトランプ
米国経済は四半期GDPが2期連続で3%超成長を記録し、10月の失業率も4.1%と16年10カ月ぶりの低水準となり、主要株価指数が揃って史上最高値を更新するなど好調を維持し続けている。
しかし、こうした好調な経済はオバマ政権から引き継いだ遺産であると同時に、イエレンFRB議長が行ってきた慎重な金融政策に負うところが大きいと考えられている。米国経済が拡大を続ける中で政権を引き継いだトランプ大統領は、「自らの実績作り」を優先しなければならない立場にある。
FRBの金融緩和政策によって雇用情勢が回復傾向を見せ、「雇用の弛み(スラック)」を懸念し続けていた雇用の専門家であるイエレンFRB議長すらも、スラックがなくなったと発言する足元の雇用情勢のなかで、さらに雇用を拡大していくのは並大抵のことではない。
しかも、FRBは利上げに続いてバランスシート縮小政策にも着手しており、これまで雇用情勢改善のエンジン役を果たしてきた金融政策は引締め方向に動き出している。
こうした経済状況を鑑みると、トランプ政権が「米国経済を発展させたヒーローになるのは尋常な方法では難しい」と考えたとしても不思議ではない。
トランプ大統領の一人勝ちシナリオ
一般的に「危機を救った人間はヒーローになるが、危機を未然に防いだ人間はヒーローになれない」と言われている。
トランプ大統領がこうした認識を持っているとしたら、米国本土に危機が及ばない現時点で、北朝鮮問題を積極的に解決することに労力をかけるのはあまり得策ではない。
むしろ、日本にとって「国難」であり、米国にとっては現時点では「国難」ではない北朝鮮問題を貿易赤字、雇用拡大の交渉材料に使うほうが、政権にとって遥かに賢明な選択のはずである。
そのために重要となるのは、北朝鮮問題が日本や韓国にとって「国難」であり続け、両国が米国の軍事力に頼らざるを得ない状況を維持することである。
そうした状況を演出するためならば、米国大統領の発言とは思えない汚い言葉やきつい表現を使って北朝鮮を攻撃することなど、もともと言動や品格に関して批判を受け続けているトランプ大統領にとってお安い御用だろう。
それと同時に、強烈な発言を続けることで米国民に北朝鮮問題が「近い将来起こりえる危機」であるという認識を植え付けておけば、北朝鮮が実際に米国本土に届くICBMや核弾頭を実戦配備したり、グアムなど米国領土にミサイルを発射するなどしたりして北朝鮮の脅威が目に見える形で現れた際には、「目に見える危機を解決したヒーロー」になることができる。
トランプ大統領のシナリオでは、北朝鮮の脅威が米国民にとって「ステルス脅威」である間は北朝鮮危機を利用して「貿易赤字を解消するヒーロー」役を演じ、脅威が米国民の目に見える段階に来た際には「北朝鮮の脅威を取り除いたヒーロー」役を演じることになっていると思われる。
そして、そのシナリオのト書きには、「北朝鮮問題が、日本や韓国にとって『差し迫った脅威』であり、米国民にとって『ステルス脅威』である期間を、できるだけ長くすることが望ましい」とも書かれているはずである。
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