安倍官邸の大誤算
安倍一強体制が揺らぎ始めたことで、安倍総理とトランプ大統領の関係が「蜜月関係」から、蜂(トランプ大統領)が蜜(安倍総理)を吸い尽くす「蜂蜜関係」に変わっていっても不思議なことではない。
今年4月、別荘「マー・ア・ラゴ」に習近平主席を招いて行われた夕食会の最中、トランプ大統領はシリア政府軍に対して巡航ミサイルを59発撃ち込んで見せ、習近平主席から「化学兵器の使用には反対する。トランプ大統領の決断に賛同する」という、事実上米国のシリア空爆を黙認するコメントを引き出した。
このように米中首脳会談席上で黙認した手前、拒否権を行使することが難しかった中国は、国連安全保障理事会に諮られたシリアで起きた化学兵器による攻撃を非難し、アサド政権にこの件で調査に協力するよう求める決議案では、棄権に回ることになった。シリア関連決議案で過去6回拒否権を行使してきたにも関わらずだ。
その中国は、今回の米中首脳会談でトランプ大統領を「国賓以上」「皇帝並」の厚遇でもてなすとともに、28兆円におよぶ見せ金を積んだ貿易協定締結セレモニーを準備することでトランプ大統領の主張をかわすだけでなく、トランプ大統領から巨額の貿易赤字に関して「中国のせいにはしない。ここまで貿易赤字が拡大するのを許してきた過去の政権のせいだ」という発言を引き出すしたたかさを見せた。まさに「マー・ア・ラゴ」の仇を北京で討ってみせた格好だ。トランプ大統領訪中において、習近平主席は常にイニシアティブを握っていたといえる。
これに対してトランプ大統領との親密さをアピールすることで失地回復を目指してきた安倍総理は、共同記者会見の席上で「F35は世界最高の戦闘機、さまざまなミサイルも製造している。米国に多くの雇用が生まれるし、日本が安全になる」と米国製武器購入を迫られ、「日本は防衛力を質的に、量的に拡充しなければなららない」「イージス艦の量、質を拡充していくうえで、米国からさらに購入していくことになるだろう」と手形を振り出す羽目になった。
良好な日米関係が日本の国益であることは確かだが、安倍一強体制が揺らいできたことで、「蜜月関係」という言葉の陰で日本が「蜜を吸い尽くされる」リスクも高まってきている点には注意が必要だ。「安倍一強体制崩壊」がトランプ大統領にとって「蜜の味」である可能性を忘れてはならないだろう。
有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年11月12日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中
元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚
[月額4,070円(税込) 毎週 月曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
時代と共に変化する金融・経済。そのスピードは年々増して来ており、過去の常識では太刀打ちできなくなって来ています。こうした時代を生き抜くためには、金融・経済がかつての理論通りに動くと決め付けるのではなく、固定概念にとらわれない思考の柔軟性が重要です。当メルマガは、20年以上資産運用、投融資業務を通して培った知識と経験に基づく「現場感覚」をお伝えすることで、新聞などのメディアからは得られない金融・経済の仕組や知識、変化に気付く感受性、論理的思考能力の重要性を認識して頂き、不確実性の時代を生き抜く一助になりたいと考えています。