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米国に見捨てられ、イランの力を恐れるサウジアラビアの苦悩=真殿達

ネムル師の死刑執行から対イラン断交に至るこの国の指導者の深層心理には、自らの弱さや脆さに対する漠然とした不安が渦巻いている。それがどのような意識から生まれた行為であれ、サウジに何らかの変化が始まることを告げている。(『投資の視点』真殿達)

筆者プロフィール:真殿達(まどのさとる)
国際協力銀行プロジェクトファイナンス部長、審議役等を経て麗澤大学教授。米国ベクテル社とディロン・リードのコンサルタント、東京電力顧問。国際コンサルティンググループ(株アイジック)を主催。資源開発を中心に海外プロジェクト問題への造詣深い。海外投資、国際政治、カントリーリスク問題に詳しい。

米国との利害対立、イランの脅威、財政赤字――どう出るサウジ

サウジ「焦り」の背景

サウジアラビア(サウジ)ではシーア派の指導者は抑圧されていた。逮捕拘禁され厳しい判決を受けた。ただ、判決通り極刑に処されることはなく、政治状況に応じて釈放され適宜泳がされてきた。

だから1月2日のネムル師の死刑執行は一線を越えたものだった。これをきっかけにサウジとイランは断交し、バーレーンとスーダンが続いた。

だがUAEは大使召還にとどめ、他の湾岸協力会議諸国もイランとの関係を断とうとはしなかった。石油価格は軟化し続けている。サウジは大きな変化は生じないと踏んで高位にあった聖職者の死刑執行に及んだのかもしれない。その背景には国としての焦りがある。

サウジの中東での相対的地位はかつてなく大きい。発言力の大きかったエジプト、シリア、イラクに見る影がなくなったからだ。ただ、周りがこけたため相対的に存在感が増したのであって、サウジの力が強くなったわけではない。逆に弱さが目立つ。

アメリカとの核協議がまとまりイランが国際社会に復帰してくる。サウジの古い体制は世界の変化にキャッチアップできていない。

一方、イスラム聖職者の支配する宗教国家のままでいながら、イランには世界観があり、国際社会で当事者能力を発揮する人材が多い。

たとえば、石油関係にはメジャーをうならせるような人材が蝟集(いしゅう)しており、その交渉力には定評がある。アラムコとは違う。

サウジの指導者たちはこうしたイランの力を恐れている。1400年前から続く宗派対立は表のお題目であって、実態はこのような世界での実力差を意識した政治的なものだ。

シリアの内戦やイエメンとの戦争はサウジの筋書き通りには進んでいない。アサドはしぶとく生き残り、ISISの様なスンニ派勢力を抑えることができない。

スンニ派の中でもトルコやカタールのように独自の動きをする勢力があり指導力を発揮し切れない。しかも、長く続いてきたアメリカとの関係が崩れ始めている

石油輸出国に転じたアメリカとは油価や生産量を巡って利害が対立し始めた。オバマ政権の中東政策にはサウジへの配慮がない。その典型がイランとの核協議だった。

考えてみると、対外的には何一つうまくいっていない。加えて、財政赤字が大きくなり、虎の子のアラムコの株式公開によって不足資金を補う必要に迫られている。リスクはごろごろしている。

国内は去年政権交代があったばかりで、体制の引き締めが必要である。これまでと変わらぬ王位継承を続けていると古い体質は到底変えられない。

しかし、若いテクノクラートを要職につけようとすると古い王族が不満を抱く。国内の不満を外に向け、返す刀で引き締めていかなければならない。実害のない形で一発かまして、アメリカにサウジが危機感を持っているというメッセージを発しておかなければならない。

どうせ、イランとは様々なところで代理戦争が続いている。イランの別働隊であるヒズボラフーシは叩き潰さねばならない。断交したところで影響は少ない。

ネムル師の死刑執行から対イラン断交に至るこの国の指導者の深層心理には自らの弱さや脆さに対する漠然とした不安が渦巻いている。

どのような意識から生まれた行為であれ、サウジに何らかの変化が始まることを告げている。何の始まりになるのだろうか。

【関連】ロシアがシリア・アサド政権を全力で守らなければならない真の理由=真殿達

投資の視点』(2016年1月18日号)より一部抜粋
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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