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「デジタル円」始動も遅すぎた?トランプが恐れる「デジタル人民元」に日本人も飲まれる=高島康司

デジタル化されても円は円?

一方、「デジタル円」には仮想通貨と大きく異なる特徴もある。それは、価値の安定性だ。

ビットコインのような仮想通貨には価値の前提となるようなものが存在しない。株式には会社の業績や資産という価値の基礎、また法定通貨には流通を中央銀行が保証するという強制通用力が価値の基礎として存在するが、仮想通貨にはそのようなものはない。結局それは、デジタルデータでしかない。そのため、ビットコインのような仮想通貨の価値は、時々の需要と供給だけで変動し、乱高下する。これが原因で、仮想通貨には当初期待されていたような支払い手段としての役割を現在も果たせずにいる。

このような仮想通貨とは異なり、「デジタル円」は中央銀行が価値を保証した法定通貨なので、仮想通貨のような極端な価値の変動は起こりにくい。価値が安定しているので、日々の支払い手段として用いることができる。

このように見ると、「デジタル円」とは現在の円が紙幣からデジタルに変わっただけで、特に大きな変化はないように見える。

入金や送金は手数料なしで行われる。いますでに「Suica」や「PayPay」などそれぞれコンセプトが少し異なるデジタルな決済手段が当たり前のように使われている。店に入って商品を取り、出口のレジの読取機にスマホをかざす光景は日常的に見るようになった。

「デジタル円」が導入されて現金の授受がなくなっても、特にびっくりするようなことでもない。これまでに日常の延長である。

なぜ「デジタル円」に注目が集まっているのか、よく分からないといった声も聞こえそうだ。すでに準備はできているから、導入するなら早くしてほしいと思うかも知れない。たしかにそうである。

「リブラ」の衝撃

たしかに、我々の日常に限ればこのようにいえるかもしれない。「デジタル円」も他のデジタルな決済手段も変わらないという感じだ。

しかし、国際金融システムという視点では、「デジタル円」を導入するかどうかはまさに日本経済の死活問題にもなるのである。国際金融システムが将来激変する予告になったのは、フェイスブックなどがバックアップする「リブラ」と、中国の法定通貨である「デジタル人民元」の立ち上げである。

「リブラ」とはフェイスブックが中心になって結成した「リブラ評議会」が発行元になるデジタル通貨だ。デジタル通貨という点では特に新しい特徴があるわけではないが、注目を集めているのは、その使用範囲の広さである。

現代、フェイスブックには約27億アカウントが存在すると見られている。実に世界人口の3分の1がアカウントを持っていることになる。

「リブラ」は、フェイスブックにアカウントを持つものがメッセージやファイルの送受信に使う「フェイスブック・メッセンジャー」と同レベルの使い勝手のよさで、「リブラ」の送金と入金を可能にする仮想通貨だ。

また「リブラ」の当初の構想では、「リブラ」を安定させるため、「リブラ」の価値は、ドル、ユーロ、円、ポンド、人民元などの国際決済に使われる法定通貨の平均価値に固定され、安定させるとしていた。

約27億のアカウント、安定した価値、極端に安い手数料、そしてメッセンジャーのような使い勝手の良さとすべての条件のそろった「リブラ」が導入されると、これがものやサービスの輸出入の国際決済にも利用される可能性が高くなる。ドルに代わる新たな国際決済通貨になってしまう可能性も否定できなくなる。

これに対して脅威を感じた米議会はパニックのような拒否反応を示した。フェイスブックのCEO、ザッカーバーグを始め、「リブラ協会」の幹部が米議会の公聴会に呼ばれ査問された。そのため、2020年内としていた発行時期は難しいと見られていた。また、「リブラ」の消滅を懸念する声も強かった。

そこで「リブラ協会」は、米議会の圧力と要望を受け入れ、ドルなどの単一通貨を裏付けとする発行に方針転換した。これまでの複数通貨を裏付けとして価値を保証する「通貨バスケット制」は放棄はしないが、当初の方針からは後退し、「リブラ」の価値を保証する上での法定通貨の優位性を受け入れた。

そうした状況なので、これから「リブラ」の開始は加速すると見られている。具体的には、米ドルを担保資産とする「LibraUSD」、ユーロを担保資産とする「LibraEUR」、英ポンドを担保資産とする「LibraGBP」、シンガポールドルを担保資産とする「LibraSGD」となる。

また将来的には、これらすべてをまとめて、従来のコンセプトの「リブラ」を発行できるよう進めていくとしている。

Next: アメリカがパニック的な拒否反応を示したのは「リブラ」だけではない――

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