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「デジタル円」始動も遅すぎた?トランプが恐れる「デジタル人民元」に日本人も飲まれる=高島康司

デジタル通貨であればそれが可能

こうした要求を充足する理想的な決済方法こそ、デジタル通貨によるものだ。いま立ち上がりつつある「リブラ」にしろ「デジタル人民元」にしろ、デジタル通貨による決済には銀行による仲介も、「SWIFT」のような専用の送金システムも不要だ。資金のやり取りは、相互のウォレットを介して直接行われる。そのため、決済に要する時間は一瞬である。

また、銀行や「SWIFT」のようなシステムが介入しないので、手数料は極端に安い。これはグローバル市場で経済活動を行う企業にとっては、願ってもないことだ。こうしたデジタル通貨を、決済手段として導入することへの期待が高まるのは当然だ。

このような事情のため、アメリカが圧力をかけようとも、デジタル決済手段を待望する声は強い。

もちろん、価値が安定して投機的な乱高下がなく、ハッキングなどでウォレットから資金が盗まれるというセキュリティ上のリスクがないことが条件になるが、そうしたデジタル通貨が利用可能となれば、迅速なトランスアクションが求められるグローバル経済では、使用頻度は確実に高まるだろう。

「デジタル人民元」が国際決済通貨に?

こうした状況で将来の国際決済通貨になる可能性がもっとも高いのは、年内にも本格的に導入される可能性が高い「デジタル人民元」である。

もちろん立ち上がった場合、「リブラ」も決済に使われるだろうが、むしろ「リブラ協会」のような民間団体ではなく、中央銀行が価値を保証する正式な法定デジタル通貨である「デジタル人民元」が国際決済通貨になる可能性が高い。銀行の仲介を必要とせず、送金側と受取側のウォレット間で一瞬で決済が完了し、手数料も極端に安い決済方法は、一度導入されると燎原の人のように拡大するかもしれない。

こうした状況で、ドルや円のようなデジタル化していない法定通貨の決済方法と併存した場合、どのようなことが起こるのだろうか?

一方は70年代の時代遅れの「SWIFT」を使い、高い手数料に加え、下手をすると1週間もかかってしまう決済方法と、すべての取引が一瞬で済むデジタルなシステムでは、やはり後者に軍配が上がることは確実だろう。

次第に国際決済通貨としては既存のドルや円は使われなくなる方向に向かうかもしれない。

さらに決済通貨である「デジタル人民元」で決済が行われるも、円がデジタル化してない状況では、企業が輸出代金として得た「デジタル人民元」をデジタルではない既存の円に転換したり、また輸入の際は既存のデジタル化していない円を「デジタル人民元」に転換しなければならない。

このシステムがどのようなものになるのかはまだ見えないが、この過程で銀行のような金融機関が関与し、それが新たな手数料の発生源になる可能性もある。これは銀行には新たな利益をもたらすかもしれないが、輸出入を行う企業にとっては取引コストの増大となる。

できれば、「デジタル人民元」と「デジタル円」は、手持ちのビットコインを取引所でイーサリアムに交換する操作と同じくらいの容易さで転換でき、手数料も限りなく低くなることが望ましい。

トレンドに乗り遅れないための「デジタル円」

このように、「デジタル人民元」のようなデジタル法定通貨が国際決済通貨となる世界的なトレンドのなかで、「デジタルユーロ」や「デジタルポンド」、さらには「デジタルスイスフラン」の構想と研究も進んでいる。

将来は複数の法定デジタル通貨が立ち上がり、「デジタル人民元」を基軸通貨にしながらも、複数のデジタル法定通貨で決済が行われる方向に向かうかもしれない。こうした世界的なトレンドに乗り遅れないためには、円もデジタル化を目指すのは避けられないのだ。

そして、基軸通貨としての地位を失いたくなければ、最終的にはドルもデジタル化しなければならなくなるだろう。

一方この動きは、利益の多くを送金手数料に依存している既存の銀行にとっては大きな損失になる。そのため日銀も「デジタル円」の勉強会を立ち上げてはいるが、早期の導入の予定はないとしている。「デジタル円」の本格的に導入は、既存の金融システムの転換になる。これを実現するためには、銀行を含めた既存の金融機関の了解が必要になるので、日本のメインバンクを巻き込んだ包括的なプロジェクトでなければならないだろう。

6月3日にスタートしたデジタル通貨の「検討会」は、この方向に向かう第一歩であろう。そして検討を重ねながら、「デジタル円」の本格的な導入に向けて動き出すはずだ。

いまのところ時期は確定できないものの、年内にも「デジタル人民元」が本格的に導入されると見られているので、法定通貨のデジタル化は加速するに違いない。その流れの中で、「デジタル円」の導入も時間の問題となってこよう。

Next: では「デジタル円」が導入された場合、我々の生活はどのように変わるのだ――

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