それでも進む国際決済通貨のデジタル化
だが、アメリカのこのような抵抗にもかかわらず、国際決済に使えるデジタル通貨の需要は高い。その理由は比較的に単純だ。ドルを基軸通貨とする既存の決済システムでは送金と決済のシステムは複雑で、なおかつ送金や決済にかかるコストが高いのだ。
輸出入の国際決済がドルのような外国為替で行う場合、企業は海外の銀行に預金口座を開設することが必要になる。その口座に代金の入金や出金を行うことで決済する。国際決済においては、すべての決済を仲介する国家機関は存在しない。国際決済は下のような銀行間の入出金のやり取りとなる。
送金元の日本の銀行 → 海外の中継銀行1 → 海外の中継銀行2 → 受取先の海外の銀行
このとき、海外の銀行間の送金には「SWIFT」という通信システムが使われる。「SWIFT」とは「国際銀行通信協会」の略で、ベルギーに本部がある非上場の株式会社が管理する金融機関専用の通信システムのことだ。
これは、あくまでドルを決済通貨としたシステムである。資金の送金や入金、証券の取り引きなど、国境を越えて行われるあらゆる金融取り引きは「SWIFT」を使っている。国際金融ではなくてはならないシステムだ。
しかしこれは、理想的なシステムといえるようなものではない。「SWIFT」は1970年代にできたシステムで、すでに50年近く経っている。いくつかの問題がある。
その1つは、多くの銀行が決済過程に関わるため、入金と出金に時間がかかることだ。送金銀行、中継銀行、受取銀行のそれぞれが手続きや処理を個別に行うので、着金までに少なくとも3日から5日もかかってしまう。さらにこの間に土日や祝日などが入ると、1週間以上かかることもある。製品の製造に世界中に分散する生産拠点を結ぶ複雑なサプライチェーンが関与する現代のグローバルな生産体制では、決済にかかるこの遅さは致命的な欠陥だ。
もうひとつは、手数料がかなり高いという点だ。「SWIFT」では、関わる銀行のすべてがそれぞれ手数料を徴収する。送金元では送金手数料、中継銀行ではその手数料、そして受取先では受取手数料が発生する。この結果、決済に必要となる合計コストは必然的に高くなってしまう。
これらの「SWIFT」の欠点は、スムーズで迅速な決済を求める現代のグローバルな企業にとっては、なんとか解決したい問題だ。
これは、ブロックチェーンやAI、さらにビッグデータなどの最先端のAIを駆使して効率的に運営されるサプライチェーンが、決済の過程だけはいまだに70年代のシステムだというのはあまりにアンバランスだ。少しでも製品やサービスの輸出入にかかわる企業であれば、時間がかからず、送金コストが安い決済システムを求めるはずだ。これはしごく当然の要求だ。