日本国債の格付け順位は現在25位で、韓国や中国よりも下にいます。格付けとは債務不履行に至る可能性の低い順ですので、本来、とても円が「安全」とは言えません。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
少子高齢化、莫大な政府の借金…なぜ円は「安全通貨」なのか?
メルマガ読者からの質問
円は安全通貨と言われていますが、日本国内に住んでいると少子高齢化、派遣増加、莫大な政府の借金など、日本のネガティブなことしか聞かないので、なぜ円が安全通貨と言われているのかピンときません。
最近は、原油安で、貿易収支等もよくなっているみたいですが、震災で原発が止まった後は、貿易収支等も赤字だったと思うのですが。なぜでしょうか?
矢口新氏の回答
信用リスクの面から見ると、低金利とは安全性が高いことを意味します。日本の場合は、個人の金融資産を背景に、国内で資金が調達できるうえに、資金需要が少ないために低金利が続いています。
しかし、日本国債の格付け順位は現在25位で、韓国や中国よりも下にいます。6月13日には3大格付け会社の1つ、フィッチが見通しを引き下げましたが、円は安全通貨として買われました。しかし、格付けとは債務不履行に至る可能性の低い順ですので、とても円が「安全」とは言えません。
では、なぜ安全通貨と言われるかと言えば、
- 「過去の栄光」
- 「思考停止」
- 単なる「リスクオンの巻き戻し」が「質への逃避」と報道される
ことで「安全通貨と誤解される」ことかと思います。
1.「過去の栄光」
日本経済は一時的にNo.1などと称されたことがあり、当時は、本当に安全通貨でした。また、持っていることで、値上がりもしました。
2.「思考停止」
世界的に学歴優等生の方が「思考停止」に陥りやすいと私は見ています。つまり、「円は安全通貨というのが定義である。そのことを踏まえて、次の問題を解け」という設問がある場合に、安全=リスクオフ=……などと問題を解く方に夢中になり、そもそも「円は安全なのか」という定義を優等生ほど疑わないからです。
なぜなら、定義を疑わずに問題回答に集中したものほど、いい大学に進めるからです。「考える暇があったら、単語や数式の1つも覚えろ」で思考停止となるのです。また、先生方の論文を参照文献(定義)として、論理を展開すれば学位が取れるからです。
ところで、貿易収支とは輸出総額と輸入総額の差額で、必ずしも、経済的に黒字、赤字を表しません。
原発の停止で燃料輸入が増え、貿易赤字となりましたが、燃料購入のための円売りが円安トレンドをつくり、企業収益が拡大、インバウンド消費も増えました。つまり、貿易赤字の方が日本経済には貢献します。
現状は所得収支が大幅黒字、貿易収支も黒字化するなど、実需は円を買っています。簡単に円高に振れるようになった背景には、そういった背景もあるのですが、「リスクオフで買われる」というのが「通説」となっています。
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