日本の製薬会社の中でも特に注目を集める第一三共<4568>について深く掘り下げていきます。足元の業績は非常に好調でありながら、株価が下落基調にあるという、一見矛盾する状況にあります。なぜ業績が良いのに株価が下がっているのか?そして、第一三共の真の強みとは何なのか?これらの疑問を解き明かし、皆様の投資判断に役立つ情報をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
第一三共の株価、なぜ下落?業績好調の裏にある「不透明な影」
まずは、第一三共の足元の株価推移から見ていきましょう。

第一三共の株価は、2022年頃から大きく上昇を始めました。2,000円台から4,000円、5,000円と伸び、一時6,000円近くまで上昇しましたが、2024年後半から下落に転じ、ピークからほぼ半値の3,000円前後で推移しています。
この株価下落の要因として、直近で最も話題になっているのが「関税」の問題です。
<貿易摩擦の波紋:医薬品関税の影響>
もともと、医薬品の関税はWTO協定に基づき、日米欧間で基本的にゼロとされていました。しかし、トランプ大統領の任期中から相互関税の導入が表明され、医薬品に関税がかかることで米国の安全保障上の脅威にならないかという調査報道もありました。
日本の製薬業界は、関税が課されれば当然価格が上がるとの見解を示しています。医薬品は人々の健康に深く関わるものであり、関税によって価格を上げるべきではないという共通認識が国際的には存在します。しかし、トランプ大統領は「アメリカ経済を良くする」という名目で、あえてこの「聖域」に踏み込み、相互関税を取り入れようとしています。
現在、今年の8月1日から日本からの輸入品に25%の関税が課されるという報道が出ています。第一三共も日本、アメリカ、ドイツ、中国に工場を持ち、主力製品の製造拠点は日本にあると推測されるため、この関税による影響は避けられないと考えています。同社は業績予想にこの関税の影響を「含まない」としていますが、これは関税のパーセンテージや導入の不透明さがあったためであり、実際には影響があるという認識です。
ただし、医薬品は自動車などとは異なり、「安いから買う」という性質のものではありません。有効な薬がそこでしか作れない場合、仮に関税がかかったとしても、そのコストは最終的に薬の価格に転嫁される可能性が高いと考えられます。つまり、患者や医療機関の負担が増えるだけであり、第一三共の実質的な業績への影響は限定的であるというのが、私の見方です。
株価を動かす「新薬」の期待と課題
製薬会社の株価は、単純な業績だけでなく、様々な材料によって大きく変動するという特徴があります。
<「エンハーツ」がもたらした飛躍と「ダトロウェイ」の試練>
2022年以降、第一三共の株価が大きく上昇したのは、主力医薬品である抗がん剤「エンハーツ」の優位性が立証されたことが大きな要因です。これを受けて発表された決算も好調で、株価は大きく跳ね上がりました。
しかし、その後株価が下がった時期があります。これは、エンハーツに続く期待の新薬「ダトロウェイ(Dato-DXd)」の臨床試験結果が悪く、「効果がないのではないか」という報道が出たためです。
ダトロウェイはその後も試練が続き、2024年には欧州での販売取り下げというニュースも流れ、一時「もうダメだ」という見方も出ました。しかし、実際には2025年1月から4月にかけて、アメリカとヨーロッパで販売承認されています。
ではなぜ株価が低迷しているのかというと、この承認が当初想定していた患者層とは異なる、より限定された患者層を対象としたものだったためです。これにより、元々1,000億円超を見込んでいた売上が、100億円程度にまで大幅に下方修正される可能性が出てきてしまったのです。技術的には優れているものの、市場での売上が当初の期待に届かない可能性がある点が、株価の重しとなっています。
このように、製薬会社は新薬の開発状況や臨床試験の結果、販売戦略の変更など、多岐にわたる要因で株価が大きく変動する傾向があることが分かります。
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