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なぜ過去最高益「第一三共」株価急落?長期投資の好機か。今後の成長性、製薬株の落とし穴を解説=佐々木悠

絶好調の業績を支える「エンハーツ」とADC技術の全貌

株価の変動は激しいものの、第一三共の足元の業績は「絶好調」そのものです。

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2021年頃は苦しい状況でしたが、2022年、2023年と売上・利益ともに大きく伸び、過去最高を更新する見込みです。特に利益は、2021年頃の約700億円から、現在では3,000億円を超える水準に達しています。

この驚異的な業績を牽引しているのが、やはり「エンハーツ」です。

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2020年~2021年頃は「リクシアナ」という薬が主力でしたが、2022年以降はエンハーツの売上が急伸しています。2026年にはエンハーツだけで6,000億円~7,000億円規模の売上を見込んでおり、その成長力は目を見張るものがあります。

<癌治療に革命を起こす「ADC技術」とは?>

エンハーツが画期的なのは、「ADC技術」というものが使われている点です。この技術自体は第一三共の専売特許ではありませんが、非常に難易度が高く、同社がこれを医薬品として実用化できたことが高く評価されています。

ADC技術(抗体薬物複合体)「抗体」と「抗がん剤治療」の2つを組み合わせた、新しい医薬品の形です。
従来の抗がん剤治療は、がん細胞だけでなく健康な細胞も攻撃してしまうため、患者にとって非常に辛い副作用を伴います。これに対し、抗体医薬は特定の場所に作用を届ける特性があります。

ADC技術は、この抗体の能力を使ってがん細胞をピンポイントで狙い、そこに抗がん剤という「薬剤」を投入するものです。イメージとしては、「患部に行くまでは何もせずに、患部に届いた時に活躍する」ような、がん治療における「ロケット」や「核弾頭」のようなものです。健康な細胞を温存しながらがん細胞のみを攻撃するため、副作用が少なく、高い効果が期待できるのです。

<20年の歳月を経て花開いた「エンハーツ」開発秘話>

エンハーツの開発は、まさに執念の賜物です。

開発者の我妻氏は、幼少期に父親をがんで亡くしたことをきっかけに、がん治療薬の研究を志したそうです。研究は2005年、わずか4人のチームで始まりました。当時、第一三共は第一製薬と三共製薬が合併したばかりの時期で、潤沢なキャッシュがあったことが巨額の投資提案を後押しした可能性も指摘されています。

そこから実に約20年もの歳月をかけて開発が進められ、2022年頃に主力製品として販売が開始されました。難易度の高いADC技術への挑戦は社内からの反対もあったそうですが、「頑張れば成功する」と信じて研究を続けた結果、世界トップレベルの安定したADC技術を確立し、エンハーツが誕生したのです。

このADC技術はエンハーツに限らず、他の薬への応用も可能(プラットフォーム化)であり、その再現性の高さや安定性が高く評価されています。第一三共は、この技術を活かしてアストラゼネカやメルクといった世界のメガファーマと協力し、研究開発を進めています。

世界のメガファーマとの「戦略的提携」がもたらすメリット

エンハーツの大ヒットは、第一三共にとって非常に大きなメリットをもたらしました。それが、アストラゼネカやアメリカのメルクといった世界のメガファーマとの戦略的提携です。アストラゼネカは新型コロナウイルスのワクチン開発でも知られる大手企業です。

この提携は、エンハーツの評価が高まったことにより実現しました。メガファーマ側は第一三共のADC技術やエンハーツの共同開発・販売を望み、その対価として様々なメリットが第一三共にもたらされています。

具体的には、

  • 多額の契約金を最初に受け取れる
  • 新しいエンハーツの改良版などの開発コストを折半できる
  • メガファーマの持つ開発技術を活用できるため、開発スピードが向上する
  • メガファーマのグローバルな販売網を通じて、海外でより薬を売りやすくなる
  • 売上に応じてマイルストーン収入(追加収入)が得られる

というものです。

これらのメリットにより、第一三共は開発・販売両面で非常に大きなプラスを得ています。特に、新薬開発には巨額の費用と時間がかかるため、リスクを下げられる点は非常に重要です。日本の製薬会社が直面する「特許切れ問題」や「次の新薬開発の難しさ」といった課題に対し、このような提携は資金的な余裕を生み出し、技術協力によって開発スピードを上げ、世界中で販売できる体制を早期に構築できるという点で、極めて有効な戦略と言えるでしょう。

Next: 第一三共は買いか?見逃せない投資リスク

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