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アップルを苦しめる“脱中国化”の意外な盲点。韓国サムスンが成功し、アップルが苦戦する理由とは?=牧野武文

ある日突然やってくるアップルからの連絡

ご迷惑がかかることになるので、業種、時期などは伏せますが、アップルのサプライヤーになった日本の地方中堅企業の経営者の方にお話を聞いたことがあります。ある日突然、アップルから連絡があり取引をしたいと言われてびっくりしたそうです。その企業は、業界の中では名が知られている中堅企業でしたが、世界的に名が知られているとは思っていなかったので、よくアップルが見つけてきたなと驚き、そして、またとないチャンスだと感じたそうです。

話を進めると、アップルのチームがやってきて、1週間以上にわたって工場の内部をすべて調査をしていきます。アップルのサプライヤーになるためにはアップルが定める基準をクリアしなければならず、その調査だというのです。

その結果、いくつかの小さな問題点が発見されましたが、アップルは解決策も提示をして、同意をしてくれるのであれば、サプライヤー認定が可能だという話になりました。そして、肝心の部品の納入価格の交渉に入ります。

利益ゼロの納入価格を提示に仰天

その経営者が驚いたのは、アップルはいきなり「利益ゼロ」の納入価格をずばりと提示してきたことでした。あてずっぽうではなく、業界の相場やその企業の業務プロセスを分析した上で出してきた価格だと感じたそうです。

利益ゼロでは契約することができませんが、アップルは、工場内のプロセス改善提案をいくつかしてきて、それをやり切れば、コストが下がって利益が出る価格になります。

経営者は同意をしました。アップルの提案を実行するのは簡単ではない苦労が伴いますが、アップルと取引ができ、なおかつ工場の業務プロセスは最先端のものとなり、決して大きいとは言えないものの利益が出て、しかも大量注文であるために、企業としても成長ができるからです。一方で、アップルは同類の部品を業界最安値水準で調達することができるのです。

アップルは、単に価格だけを比べて最安値の部品を市場から調達するというのではなく、信頼できる品質を出せるサプライヤーを選び、そこの業務プロセスを改善させることでコストを下げさせ、安値で部品を調達するということを行なっています。

さらに、アップルは製造装置の自社開発もしています。最先端の製造装置を大量に開発することでコストを下げ、これをサプライヤーに貸し出し、高品質の製品を低コストで製造します。

アップルは、同じ部品について複数のサプライヤーに製造させています。これは、万が一の場合、供給が滞って生産ができなくなることを避けるためのリスクヘッジですが、サプライヤーにしてみれば、常に他社と競争状態にあり、手を抜けない仕事となります。しかも、製造装置は自社のものではなくアップルの所有物ですから、最悪の場合、製造装置を引き上げられてしまうということも頭をよぎります。

サプライヤーにとってアップルの仕事は非常に厳しい仕事になります。しかし、その報酬として、技術レベルがあがり、何よりアップルが品質を認めたということですから、他のビジネスはしやすくなります。ですので、製造業としてはなんとしてもアップルの仕事は取りたいですし、手離したくない仕事なのです。

Next: アップル最大のEMS企業、中国フォックスコンの実態

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