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アップルを苦しめる“脱中国化”の意外な盲点。韓国サムスンが成功し、アップルが苦戦する理由とは?=牧野武文

脱中国化を成功させた韓国サムスン

脱中国化を先に完了しているのは韓国サムスンです。サムスンは2008年という早い時期からベトナムでの生産に挑戦をし、2018年には中国から生産を完全撤退しています。ひとつは、中国で販売施策を誤ったことにより、中国市場でのサムスンのスマホシェアが1%を切るという状況になり、もはや中国はサムスンの市場ではなくなってしまったことがあります。中国で売ることができないのであれば、中国で生産をする意味もあまりないことになります。

そのため、安い人件費を求めて、ベトナムの生産を始めましたが、やはり熟練工不足に悩まされました。それが軌道に乗るのは10年かかり、ようやくサムスンのスマートフォンの半分程度がベトナムで生産されるようになりました。

しかし、今度は、ベトナムの賃金が早くも上昇を始めています。そのため、サムスンは現在、インドネシアとインドに工場を建設する計画を進めています。

このサムスンの例を見ると、アップルのインド生産、ベトナム生産が軌道に乗るまでにはまだまだ時間がかかりそうです──

中略

今後アップルブランドを維持できるのか?

アップルのものづくりは非常に精密で、簡単に言えば、腕時計の手法を電子機器に持ち込んだと言っても過言ではありません。MacBookやiPadの筐体は、アルミの塊を削り出すという手法で製造されますが、これは本来、腕時計のような小さな製品に使われる手法です。削り出しであるので、薄くても強度のあるボディが製造できます。パソコンのような大きな製品に適用したら、削り出しの時間は膨大にかかりますし、何より、素材の多くを削りカスとして捨てるというムダが出ます。それでもアップルは、「薄くて、強度があり、何より美しい」という理由で、この手法を採用しています。

これがアップルのブランド価値を高めている大きな要因のひとつですが、同時に生産拠点の移転という点では大きな障害になっています。他社の製品であれば、中程度の熟練工を育てれば生産ができるのに、アップルの場合は職人のような高度な熟練工を育てる必要があります。

そのため、アップルは製造の難易度を下げる設計を取り入れるようになっています。例えば、2015年まで、MacBookの背面(ディスプレイ裏)のアップルロゴが光っていたのを覚えておいででしょうか。カフェなどで、MacBookを使っている人を見かけると、ロゴが光っていて、非常に目立ち、アップルファンを増やす大きな原動力となりました。

この点灯ロゴ部分は、筐体がレーザーカッターによりロゴの形にくり抜かれ、そこに着色されたポリカーボネートパネルが嵌め込まれていました。嵌め込みなのです。ロゴの形に整形されたパネルを嵌め込むという非常に難易度の高い加工をしていました。精度が少しでも悪ければ、指で強く押すとロゴが抜けてしまうという事故が起こりかねません。工芸品でよく使われる象嵌細工にも通じる手法です。そのため、当時のMacBookのロゴ部分を指でなぞっても、本体部分とロゴ部分の段差が感じられません。きれいに一体化した平面になっていました。

しかし、今では、ロゴの形にくり抜いた開口部の裏から、四角いパネルを貼り付けているだけになっています。そのため、ロゴ部分を指でなぞると、段差を感じることができますし、細かい埃のようなものが段差部分に溜まることもあります。

機能に直接関係のないところなので、そこまで凝らなくてもいいという考え方もあるかと思います。しかし、そこまで凝るからこそ、アップルのブランドに価値があると考える人もいます。

アップルは脱中国化を図るとともに、このアップルのブランド価値についても考え直す必要に迫られています。アップルブランドを支えている精密加工が、生産拠点移転の大きな障害になっているからです──

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image by:skyme / Shutterstock.com
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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』(2023年1月19日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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