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アップルを苦しめる“脱中国化”の意外な盲点。韓国サムスンが成功し、アップルが苦戦する理由とは?=牧野武文

アップルのEMS企業、中国フォックスコンの実態

中国のフォクスコンは、アップルのEMS(Electronics Manufacturing Service)企業=受託製造企業として有名で、過去、その労働条件の悪さがたびたび話題になりました。しかし、アップルの信頼を得て、アップル製品の多くを組み立てしているということは間違いありません。

今回は、フォクスコンが、どのようにして成長し、アップルの製造を受け持つようになっていったのかをご紹介します。そして、最近話題にのぼる「脱中国化」=中国以外での製造の現状がどのようになっているのかをご紹介します。

中国フォクスコンの親会社は、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)で、製造部門のブランドが、中国では「富士康」(フーシーカン)、英語圏ではFoxconnという名称になっています。

その中国での巨大さは想像を絶しています。深センの拠点には常時45万人が働いていて、工場内には社員寮はもちろん、飲食店、スーパー、病院、ネットカフェ、銀行、病院があり、消防署まで備えられています。もはや、企業、工場ではなく、ちょっとした地方都市の規模です。

その他、鄭州、崑山、北京、杭州、上海、天津、太原などにも製造拠点があり、合計で80万人以上が働いています。そのため、ネットではこんな笑い話のような実話が流布されています。あるフォクスコンの工員が、より高い給料をもらうために、フォクスコンを辞職をして2年間専門学校に通いました。そして、卒業する時に勧められたのが、やっぱりフォクスコンだったという話です。

創業者の郭台銘(グオ・タイミン)は、非常に厳しい人で、「経営者は正しい暴君であるべきだ」というのが持論です。そのため、フォクスコンでは残業が奨励をされ、残業をすればするほど報酬は高くなり、上級職に就くことができるようになります。

また、工場規律は軍隊のものを参考につくられ、勤務中に私語が許されないのはもちろん、笑顔を見せただけで注意をされます。すべての作業にマニュアルができていて、この作業は2秒、この作業は6秒と標準時間が細かく定められ、左手を使うのか、右手を使うのかまで定められています。

フォクスコンのある工員が、ウェイボーに書き込んだ内容が今でも語り草になっています。それは「フォクスコンに行って機械をつくるのだとばかり思っていたが、自分が機械になった」というものでした。

この厳しさが、2010年に16人の工員が次々と飛び降り自殺をするという悲劇につながりました。

しかし、決してブラック企業というわけでもないようです。実際に働いている人に話を聞くと、フォクスコンで働くことに価値を感じている人もいます。フォクスコンで働いている人の多くが農村出身者で、中学や高校を卒業して入社してきます。そのような農村出身者にとって、自分ががんばれば毎年給料があがっていくということ自体が新鮮なのだと言います。

一般的には、実家の農家を手伝うか、都会に出て飲食店のスタッフとして働きますが、このような仕事では給料はあがらないか、あがったとしても時間がかかります。しかし、フォクスコンでは、残業をすれば手取り収入を増やすことができますし、自発的に研修を受け、新たな技術を身につけると職位があがって給料が増えます。自分の努力次第で給料が増えていくという仕事はそうそうありません。

また、そうやって給料をあげることに成功をした先輩たちが、勉強会などで自分の体験を話してくれるので、そのような人たちをロールモデルとして自分のキャリアデザインが描けるというのもフォクスコンの大きな魅力になっています。

もちろん、楽をしてお金を稼ぎたいという考えから、不平や愚痴ばかりを言う人もたくさんいますが、努力をすればしただけ報われる仕組みにはなっているようです──

中略

脱中国化を図るアップル

アップルは、2013年にすべての製品の最終組み立て地を公表したことがあります。また、サプライヤーの企業名は毎年公表しています。

アップルの場合は、欧州にインド、中東、アフリカを含めています。すると、欧州、中国、北米、アジア太平洋(ベトナム、タイなどの東南アジア)の4つが重要な生産拠点であることがわかります。

これは、アップルの地域別収入の割合と一致をしています。

アップルの市場は、北南米が最大のもので、それに続いて、欧州と中国があり、そのさらに下に日本とアジア太平洋地域があります。つまり、アップルの戦略としては、最大消費地である北南米、欧州、中国に生産拠点を持ち、生産拠点数が不足する北南米、欧州には中国生産の製品を輸出する形で補うという体制になっています。

しかし、報道されている通り、アップルは生産拠点の脱中国化を進め、特にインドとベトナムに生産拠点を転換しようとしています。

ロイターの報道によると、2019年までの5年間は、アップル製品の44-47%が中国で生産されていました。しかし、2020年には41%に低下をし、2021年は36%に低下をしたということです。

この脱中国化は、コロナ禍によるサプライチェーンの問題が原因に挙げられることが多いようです。特に2022年にフォクスコンの河南省鄭州市の生産拠点で、新型コロナ陽性者が確認され、工員が離脱をし、生産ができなくなりました。さらには戻ってきたら支払うと約束された臨時手当が支払われないなどの理由から抗議活動が起きたという事件とよく結び付けられます。

また、中国が台湾侵攻の意思を高めているということから、台湾有事になった場合の製品供給という地政学的リスクを理由に上げる報道もあります。

Next: アップルが脱中国化をする本当の理由

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