連邦政府の解体を求める
この「ナトコン」の求めるものは、不必要な省庁の解体による連邦の大幅な縮小である。
彼らは、アメリカ社会を構成する基本的な単位は成人の男女とその子供たちが作る核家族であり、地域の政治と経済、そして社会の運営は、核家族がつながった地域共同体がすべて担うべきだと考える。
彼らは、アメリカの社会問題の多くは、巨大化した連邦政府が地域共同体から権限を奪い、社会の運営能力を抑制していることから起こると見る。連邦政府の大幅縮小と省庁の解体が社会問題の解決につながるのもこれが理由だ。
これは一言で言えば、「リバタリアン」の世界観そのものである。アメリカの「リバタリアン」は、19世紀の終わりから存在している。しかし比較的最近にいたるまで無政府主義的な「リバタリアン」は、「白人至上主義」や「ネオナチ」のような周辺的な政治運動であり、社会への影響力は限定的だった。しかし、トランプの出現後、この世界観と価値観は膨大な「ナトコン」の世界観となり、いまでは共和党を完全に乗っ取るまでに巨大化した。
2016年の大統領選挙で「リバタリアン」が影響力のある政治勢力として出現し、人々を驚かせたが、それから8年経ち、「リバタリアン」の世界観はトランプが主導する共和党全体を主導する思想となった。
拡大する分断
この メルマガ メルマガ では、アメリカの分裂した状況を継続して紹介しているが、こうした「リバタリアン」的な世界観の拡大でアメリカの分断はさらに深まり、収拾がつなくなっている。アメリカの共和党員の半数(54%)は、今後10年以内にアメリカの内戦が起こる可能性が非常に高いか、ある程度高いと考えている。民主党では10人に4人(40%)がそう考えている。また、23%のアメリカ人が、自州の連邦離脱を支持している。
ジョージア州の共和党右派、マジョリー・テイラー・グリーン下院議員は、「国家的離婚」を呼びかけている。赤い州と青い州で分離する必要があるという。
この分裂は、2020年の選挙で、バイデンに投票した青い州とトランプに投票した赤い州の間で見られている。また、トランプに投票した多くの州は、南北戦争の始まった1861年に連邦から離脱した州でもある。いま南北戦争当時の南部連合は、「ナトコン」が結集する「リバタリアン」の州になっている。そしてこの分裂は、社会問題に対する根本的に異なる見方を反映している。
妊娠中絶に関する法律が最も厳しい15の州のうち、2020年にトランプ大統領に投票した州はすべて南部連合に属していた。2023年に最も寛容な銃刀法を制定した21州のうち、19州がトランプに投票し、6州は南部連合に属していた。
2022年に黒人と移民の投票を難しくする法律を制定した19州のうち、14州がトランプに投票し、7州が南部連合に属していた。また、2023年にジェンダーを肯定するケア、トランスジェンダーの学校スポーツへの参加、LBGTQ問題に触れた学校での指導や関連事項に制限を課す法律を制定した23州のうち、22州がトランプに投票し、9州が南部連合に属していた。
改めて確認するが、事実上いま2つのアメリカが存在し、戦争状態にある。社会問題、政治問題、憲法問題、そしてアメリカが世界で果たすべき役割をめぐって争っているのだ。2024年のアメリカ選挙は、この戦争におけるもうひとつの戦いにすぎないのだ。







