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廃業したパチンコ店が市民の交流拠点に?京都福知山で見た地域活性化の大成功事例=吉村智樹

パチンコ店の閉店で「商店街の灯りが消えた」

3階建ての銀鈴ビルは駅から徒歩約2分、商店街の入り口という好立地にある。1957(昭和32)年に開業したパチンコ店「銀鈴会館」は銀鈴ビルの1階にあった、言わば商店街の顔だ(ビルの2階3階は昔、ゲームセンターや従業員寮などに使っていたようだ。ただ、『入ってみたら空っぽで、正確にはわからない』とのこと)。

在りし日のパチンコ店「銀鈴会館」。3階建てのビル「銀鈴ビル」の1階に店舗を構えていた image by:福知山フロント株式会社

在りし日のパチンコ店「銀鈴会館」。3階建てのビル「銀鈴ビル」の1階に店舗を構えていた image by:福知山フロント株式会社

そんな駅前のシンボルだったパチンコ店はオーナーの高齢化とコロナ禍のダメ押しで閉店してしまった。福知山フロントのメンバーであり、商店街で「はんこカフェ 福知堂」を営む奥田友昭さんは、パチンコ店がなくなった当時の様子をこう振り返る。

奥田友昭さん(以下、奥田)「商店街から『灯りが消えてしまった』と感じましたね。うちは1946(昭和21)年からこの商店街で店をしているんですが、駅前があんなに暗く感じた経験はなかったです。夜なんて暗いから怖がって誰も歩かない。パチンコ店がなくなって、改めて『これまで商店街を明るく照らしてくれていたんだな』と気がついたんです」

ときには風紀を乱すと忌み嫌われがちなパチンコ店だが、夜の保安に貢献する側面もあったとは。

パチンコ店が閉店し、商店街から「灯りが消えてしまった」と感じたという奥田友昭さん image by:吉村智樹

パチンコ店が閉店し、商店街から「灯りが消えてしまった」と感じたという奥田友昭さん image by:吉村智樹

「これは祭だ。やろう!」と復活プロジェクトがスタート

奥田さんのように「商店街の雰囲気が暗くなった」「光を失った」と感じる住民も多かったようだ。手を打たなければ活性化へ努力が水泡に帰する危険性もあった。

幸い、パチンコ店は杉本さんが代表取締役兼CEOをつとめるグループ会社の保有物件であった。この縁から、福知山フロントは亡きパチンコ店を市民交流の場に蘇生させる「銀鈴ビルプロジェクト」を起ち上げる。

杉本「実は……内心は不安でした。『こんな古いパチンコビルを令和の時代にいまさらなんとかするなんて無理だろう』と思っていたんです。とはいえ、僕は祭が大好きで、祭が街を再生する姿をこの目で見たい気持ちもありました。そうして危機感と楽しさがマッチして、『これは祭だ。やろう!』と、企画化に乗り出したんです。勢いとノリがなかったら無理でしたね」

そうして広瀬女史たちの奮闘により令和4年度、中小企業庁による「地域商業機能複合化推進事業(地域の持続的発展のための中小商業者等の機能活性化事業)」の補助金を獲得し、復活へリーチをかけたのである。総事業費は借入金を含め約1億円となった。

銀鈴ビルの復活は、商店街に銀の光を取り戻す運動でもあったのだ。

廃業し、パチンコ台が回収された銀鈴会館。復活劇はここから始まった image by:福知山フロント株式会社

廃業し、パチンコ台が回収された銀鈴会館。復活劇はここから始まった image by:福知山フロント株式会社

10か月で来客数2万3,000人、売上7,800万円を達成

2023年4月29日、パチンコ店があった銀鈴ビルは遂に市民交流の拠点となる複合商業施設として復活した。名前は変えず「銀鈴ビル」のまま、再び商店街に灯りをともしたのである。そのインパクトは強烈だったようだ。

広瀬「同時に8店舗オープンは福知山市内ではビックリするほど珍しい出来事なんですよ」
奥田「行列がすごかったね。50メートルくらい人が並んでいました。商店街のおじさんたちも目を丸くして、『口だけじゃなくて、本当に実行してるのがすごいわ』と喜んでくださいましたね」

2023年4月29日に復活。長蛇の列ができた image by:福知山フロント株式会社

2023年4月29日に復活。長蛇の列ができた image by:福知山フロント株式会社

それまでパチンコに縁がなかった客層がやってきた image by:福知山フロント株式会社

それまでパチンコに縁がなかった客層がやってきた image by:福知山フロント株式会社

2024年4月、銀鈴ビルは復活を遂げてから無事に1年が経ち、来客数2万3,000人、売上7,800万円(2023年5月~2024年3月)を記録。名実ともに福知山の新名所となったのである。

広瀬「これまで取り組んできた銀鈴ビルをはじめとする誘致事業によって、福知山駅周辺への出店希望者が増加し、建物所有者の意識もずいぶん柔軟になりました。それも大きな効果でしょうね」
奥田「次は地元の人だけではなく、京都市や大阪など他都市からも遊びに来てもらえる場所にしていきたいです」
杉本「そう、『はじめの1年がピークだった』じゃおもしろくないですしね。祭の熱を外へ、外へと伝えていきたい。ここからがスタートですよ」

再び商店街に灯りがともり、さまざまな世代が交流する拠点として蘇った image by:福知山フロント株式会社

再び商店街に灯りがともり、さまざまな世代が交流する拠点として蘇った image by:福知山フロント株式会社

福知山は2024年8月11日(日)、奥田さんをはじめとする若手有志たちの奮起により11年ぶりに花火大会が復活する。また今年11月には、福知山線舞鶴線開通120周年を記念し、マルシェ開催とあわせて商店街にミニSLを走らせる企画を考えているところだそうだ。いま、間違いなく福知山がアツい。フィーバーしているのだ。

あなたの街にも、復興のきっかけとなる物件が眠っているかもしれない。廃墟に再び命を吹き込み、街のドル箱的な存在に蘇生させてみてはいかがだろう。

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取材・撮影:吉村智樹
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