現実主義者のトランプ
そうした典型的な論文が7月1日に出た「現実主義者のトランプ」という記事だ。有料だが以下で読むことができる。
現実主義者トランプ
元大統領はアメリカの力の限界を理解している
アンドリュー・バイヤーズとランドール・シュウェラー著
2024年7月1日
https://www.foreignaffairs.com/donald-trump-realist-former-president-american-power-byers-schweller
著者の一人は著名な国際政治学者のランドール・シュウェラーだ。この論文ではアメリカの覇権がすでに衰退し、ロシアや中国、そしてBRICSのような新興勢力に対抗して世界秩序を維持が能力がなくなっていることを認めた上で次のように言う。
実際には、米国のリーダーシップがほぼ80年を経て、世界は覇権秩序から回復された勢力均衡への移行期に入っている。これまでの勢力均衡システムと同様に、このシステムでも世界的な不満、不調和、大国間の競争が特徴となるだろう。(中略)米国はまさに「疲弊した巨人」となり、対外的な公約を守る能力も、それを守ろうとする意欲も低下している。
このような歴史的な状況の変化に対応して、これまでのアメリカの一極的覇権主義の外交政策を放棄した現実主義者こそ、トランプだという。この論文には次のようにある。
これが、自国よりも世界の利益を優先する堕落した支配層を軽蔑するトランプとその支持者の台頭を説明するものである。また、トランプの台頭が中国の習近平国家主席の台頭と時期を同じくしている理由も説明できる。両者はまったく異なる性格を持つが、リベラルな世界秩序をひっくり返すことで、自国を再び偉大な国にすると誓った。このことは、アナリストたちに、体制の崩壊にどちらも責任がないという事実を警告すべきである。
むしろ、より大きな構造的要因が働いている。トランプはワシントンの多くの人々を今でも驚かせるかもしれないし、彼には間違いなく対立を引き起こす性格がある。しかし、彼の外交政策は、非人間的な力による予測可能な産物である。
要するに、トランプのナショナリスティックで一国主義的な政策は安易に批判すべきものではなく、アメリカの覇権の凋落と中国やロシアの台頭という歴史的な環境の変化を受け入れ、これに適応した政策を打ち出しているのがリアリストのトランプだというのだ。
この論文では、イデオロギーや理想主義に縛られない現実主義のトランプを積極的に評価している。
グローバリズムの放棄を容認か?
「フォーリン・アフェアーズ」を見ると、次第にこうしたトランプの現実主義を評価する論文が明らかに増えている。これまで「フォーリン・アフェアーズ」は、アメリカの覇権を土台に形成されたグローバルな国際秩序の維持に否定的なトランプを、アメリカの歴史的な使命を裏切る存在として非難してきた。その「フォーリン・アフェアーズ」が一転してトランプを評価したことは、「CFR」そのものの方針転換を反映している可能性が高い。
もはや、大国の勢力均衡の基に築かれる多極型の世界秩序しか成立しなくなっているという、「CFR」の現実主義的な方針転換の現われでもある。そしてこれは、「CFR」が次の大統領はトランプになると見て、接近を図っていることでもある。
「CFR」の政治的な影響力は絶大である。もし「CFR」がトランプの支持に回るのなら、トランプの勢いはさらに増すことになるだろう。
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