今回は「ビズリーーチ」のCMでおなじみのビズリーチを運営しているビジョナル<4194>を分析します。中途採用市場の拡大に伴い成長中の企業です。この記事では、成長の要因とビズリーチが多くの転職希望者に利用されている理由を詳しく分析し、投資するべきか考えていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
様々な事業のなか、儲かっているのはやはりビズリーチ
まずは、ビジョナルの事業内容を確認します。
出典:決算短信より作成
売上高、営業利益ともに順調に成長し、24年7月期の売上高は764億円、営業利益191億円を達成しています。利益率も26%と高水準です。
主な事業はHR TechとIncubationの2つです。
<HR Tech>
- ビズリーチ:転職希望者と国内外の企業、ヘッドハンターをマッチングするプラットフォーム。管理職や専門職などのプロフェッショナル人材に強み。企業側から転職者に声をかける「ダイレクトリクルーティング」を推進している。
- HRMOS:採用から人材活用、勤怠管理、経費精算までを一元管理できるシステム。企業は採用活動の効率化やデータに基づいた人材採用支援サービスを提供。
- その他:OB/OG訪問ネットワークサービスの「ビズリーチ・キャンパス」、求人検索エンジン「スタンバイ」など
<Incubation>
- M&Aサクシード:法人向けM&Aマッチングサービスを提供し、企業の買収、統合を支援する。
- トラボックス:物流業界向けのデジタルトランスフォーメーションプラットフォームを提供。
- BizHint:B2Bリードジェネレーションプラットフォームを提供し、企業間のビジネスマッチングを促進する。
このようにさまざまな事業・サービスを抱えていますが、売上の95%はHR Tech事業が稼いでいます。
出典:決算短信より作成
さらに、利益を見るとIncubation事業は赤字であり、やはりHR Tech事業が事業の中心です。
出典:決算短信より作成
ただし、2024年7月期はセグメント利益は201億円ですが、ビズリーチ単体の利益は233億円です。したがって、HRMOSも赤字であり、ビジョナルはほぼビズリーチというサービスだけで利益を稼いでいることになります。
ビズリーチが儲かる仕組み
では、ビズリーチはどのように利益を稼いでいるのでしょうか?
このサービスには、転職希望者、採用企業、他社の転職エージェント(ヘッドハンター)の3つの利用者がいます。転職希望者が自身の職務経歴や履歴書、希望条件などを登録し、企業が採用したい人材を見つけ、声をかけることで転職・採用が実現します。
この仕組みをダイレクトリクルーティングと言い、なかなか転職市場にいない希少性の高い人材や、即戦力人材を採用することを目的とした転職サイトです。なお、転職エージェントも同じプラットフォームを利用して、人材を探し求人を紹介しています。
従来の転職希望者が求人に応募する採用プロセスとは異なり、企業がほしい人材に声をかける、言わば「攻めの採用」を実現するプラットフォームと言えます。
プラットフォーム利用料として定期的な収入であるリカーリング収入と、ビズリーチ経由で採用が成功した場合に売上が発生する成功報酬型のパフォーマンス収入があります。
<リカーリング(定期支払い収入)>
- 直接採用企業:6ヶ月85万円
- ヘッドハンター: 6ヶ月60万円
- 転職希望者:6ヶ月3万円
<パフォーマンス(成功報酬型の収入)>
- 直接採用企業:採用人材の理論年収(月額固定給×12+賞与算定基準額×前年度実績賞与支給月額)の15%を支払う
- ヘッドハンター:企業からヘッドハンターに支払われた採用成功報酬に20~30%のパーセンテージをかけた金額を支払う
パフォーマンス収入について詳しく説明します。
一般的に、企業が転職エージェントを利用して人材を採用した場合、企業は転職エージェントに年収の30〜40%(年収1,000万円なら300~400万円)の紹介料を支払います。
しかし、企業がビズリーチのみで採用に成功した場合は、コストは15%(年収1,000万円なら150万円)ですから、人材を探す手間はかかるとしても、エージェントを使うよりは低コストで人材を採用できるわけです。
なお、ビズリーチを通じて、転職エージェントが企業に人材を紹介した場合、企業はエージェントに紹介料(300〜400万円)を支払います。そのうち20〜30%(60〜90万円)がビズリーチに支払われます。
収入の比率はビズリーチ単体で、パフォーマンス収入の比率が高くなっています。
出典:決算短信より作成
そして、主な収入源は企業からの支払いです。
これは先の説明の通り、直接採用企業からの収入額が大きくなる仕組みが影響していると言えるでしょう。
ちなみに、転職希望者からの収入額は公開されていませんが、基本的に無料でサービスを利用できるため、大きな収入源になっているとは考えづらいでしょう。
出典:決算短信より作成
注目すべきポイントとして、3種類の利用者が全て増加傾向です。
出典:決算短信より作成
さらに、1企業・ヘッドハンターあたりの支払い単価は近年は横ばいですから、好調の要因は利用者の増加の影響が大きいと言えるでしょう。
なお、1企業あたりの顧客単価は300万円弱ですから、年収を1,000万円と仮定すると平均2名ほどの人材をビズリーチで採用していることも示唆されます。
出典:決算短信より作成
(計算方法:通期売上×売上に占める企業・ヘッドハンターの割合÷年次利用企業数orヘッドハンター数で算出)
ここで、ビズリーチの特徴をまとめます
- 転職希望者、採用企業、ヘッドハンターの3種類の利用者が存在し、それぞれから収入を得る仕組みをとっている。
- 企業が転職者に直接声をかけて採用するダイレクトリクルーティングは、企業にとっては低コストであり、ビジョナルにとっては最も利益率が高い収入源になる
- 近年の成長の大きな要因は3種類の利用者が増加していること。単価は近年は横ばいで推移している
ここで考えたいのは、利用者はなぜ増えているのか?です