生活保護は治安維持に必須
坂本:そうです。その時点でもうお金が全然ないですから、それでいま流行っているのが闇バイトですね。人ってやっぱり物が食べれなくなって、お金もなくて、身内も誰も助けてくれなくて孤独ってなった時に、もう悪いことをするか死ぬかって考えになるんですよ。
そういうこともあるから、生活保護制度を活用しやすいようにしておかないと、治安がものすごく悪くなってしまう。だから僕も「生活保護というのは恥ずべきものでもない」。僕たちも病気を患ったりとか、何かあったらそれを頼ることがあるかもしれないから、「そんな偏見の目で見んといてくれ」ということを、ずっと伝えているんですね。
鈴木:さっき話した所沢のシングルマザーも、やはり嫌だと言うんですよ、生活保護を受けたくないと。生活保護を受けると、親にも連絡が行くかもしれないし、児相に子どもを引き離されるかもしれないとかね。だけれども、どう見ても生活保護を受けなきゃ危ないような、そういうギリギリのところまで来ているんですよ、こっちから見ると。彼女はまだ頑張りたいというのだけど、それぐらい生活保護を受けるための心理的なハードルが高いんですよね。
坂本:多分そこは日本全国共通だと思うんですけど、大阪に関してはちょっとユルいと思うんです、感覚的に。僕は「大阪に来たらええやん」と言っている時も日本全国、本当に北海道から沖縄までいろいろなところから相談があったんですね。その中でも、例えば結構な田舎で生活困窮していて、生活保護を実は受けたい気持ちはあるんだけど、世間の目があって受けられない。多分それって周りの環境、育った環境のせいだと思うんですね。それなら、生活保護を受けている人に後ろ指を指すような人間があまりいない大阪で、人生をやり直した方がいいやんっていう……。
生活困窮者が避けたがる扶養照会の実状
鈴木:もう一つは、やっぱり親とか親戚に連絡が行くのが嫌だと。
坂本:扶養照会、嫌ですよね。
鈴木:実際にはそんなに連絡が行かないという話もあるんですけれども……。
坂本:そう。コロナ禍の時期に確か国会か何かで「扶養照会は要らないだろう」という話があってですね。ちょっと記憶が曖昧なんですけど、例えば10年以上連絡を取っていないとか、借金をしている、DVを受けていたということであれば、扶養照会しなくてもいいんじゃないかという話は出てきてたんですけど、ただ現場サイドでいうと、けっこう扶養照会をしている人が多いと思います。
鈴木:あぁ、そうなんですね。
坂本:ただ僕はこの11年間、全国の何万人という人から相談を受けて、居住支援をしてきた実績があるんですけど、この中で扶養照会をして生活保護を却下された人はいないです。生活困窮して生活保護を受けるってなるまでに至った人って、普通はその前に身内とかが助けるじゃないですか、親兄弟、親戚、友達とかが。それが難しいから生活保護を受けようとしているのに、扶養照会しても意味ないですよね。
鈴木:それよりも、自分が困窮しているのを知られるのが嫌なんですよ。親に自分の苦境を知られるのが嫌とか。そういう人って、大体親の絆ってあまり強くないわけじゃないですか。強くないところにそういう連絡がいって、自分が恥ずかしいとか落ち込むとか、自分はダメなんだというのを再確認するような、そういう気持ちになるから、どうしても連絡だけはしてほしくないっていうのがあるんですよね。
なかでも微妙なのが、たまに親とかと連絡は取り合うんですけれども、自分のことは一切言わない、困っているというのも言わないで、逆に「いや、大丈夫、大丈夫」という、そういう人。「大丈夫、大丈夫」と言いながら、本当に大丈夫じゃないという。
坂本:一番救ってあげたいタイプですよね。そういう声を上げられない人っていうのは、本当に難しい。