fbpx

政府が言う個人消費「回復」は幻想。賃上げしても消費が伸びない理由と2つの処方箋=斎藤満

人件費抑制による収益確保に限界

日本で消費が長期低迷を続けている最大の原因は、OECDも指摘する実質賃金がこの30年増えていないことにあります。これは主要国の中で異例の形で、所得が増えなければ消費も増えない当然の帰結となっています。

その発端が85年の「プラザ合意」です。突然ドルが半分になり、輸出型製造業は競争力を失いました。そこで下請け企業も含めて皆でコストカットを進め、効率化で乗り越えようとしました。その際、最大の費用項目が人件費で、企業は人件費の抑制に走りました。それでも日銀の円高対策、つまり大規模緩和により、日本経済はバブルに突入、株や土地など資産価格高騰で人件費抑制の影響が埋没しました。

ところが91年にバブルが弾けると、今度は資産デフレと所得の圧縮が重なって、ここから消費の低迷が始まりました。「失われた30年」の始まりです。

このうち、資産デフレはその後アベノミクスによる株高で緩和され、地価も下げ止まりました。ところがアベノミクスは企業本位で、人件費抑制のための雇用体系(非正規雇用の活用)を進めたため、資産価格は上がっても実質賃金は減少が続き、消費は出遅れました。

この所得にメスが入ったのは、コロナ禍で経済が落ち込んだ上に、OECDが主要国の中で日本だけが30年も賃金が増えない「異常さ」を指摘し、政府もこれを無視できなくなったことです。

折しも、コロナ対策で財政金融両面から大規模な刺激策をとり、さらにロシアのウクライナ侵攻も加わって、資源高、輸入インフレが進行、物価全体を押し上げ、物価は22年には一気に目標の2%を超えてきました。

これを機に、政府や産業界から「物価上昇をカバーする賃金引上げ」の機運が高まり、23年以降、ベースアップが高まるようになりました。特に人手不足が進む中で、人員確保の観点から賃上げを利用する企業が増えたため、これ以降、賃金抑制から賃金引上げに流れが変わりつつあります。

悪循環を断つ必要

企業の賃金、人件費に対する姿勢が変わり、賃上げをしても企業は値上げで利益を確保できる形が定着しつつあります。定期昇給を除いた純粋賃上げ部分に近い名目の所定内給与の伸びは、従来1%増がせいぜいでしたが、最近では3%前後にまで高まっています。低賃金の構図は修正されたのですが、残念ながら物価がそれ以上に高まって実質賃金は依然としてマイナスにあります。

政府日銀が目指す「賃金物価の好循環」は実現せず、ここまでは賃上げ分を価格転嫁し、物価が上がるために賃上げ効果が打ち消されています。

これは「いたちごっこ」「悪循環」と言わざるを得ません。

この悪循環を断ち切る必要があり、賃上げ分を丸々価格に転嫁しなくても利益が上がる形にする必要があります。これには2つの道があります。

Next: 日本復活はあるか?悪循環を断ち切る2つの道とは

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー