日本の個人消費は本当に回復しているのでしょうか?総務省の家計調査では消費の増加が示されたものの、日銀の「消費活動指数」ではむしろ減少が続いています。実質賃金の停滞が長期的な消費低迷の背景にあり、これを打破するためには単なる賃上げだけでなく、企業の利益確保の構造改革が不可欠です。日本経済が抱える根本的な課題と、その解決策を探ります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年2月10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
消費は本当に伸びたか?
総務省は7日、昨年12月の「家計調査」の結果を公表しました。これによると物価上昇を差し引いた実質の家計消費は前月比2.3%増、10-12月期でも前期比3.7%増と、久々に消費が高い伸びを見せ、回復へ向かったかに見えました。
しかし、実態はそうではないようです。
家計調査は調査サンプルが少ないため、12月はたまたま自動車を購入したり、ふるさと納税で寄付を多くしたり、また家の設備修繕にお金をかけた世帯が多かったようで、これらをほかの支出統計で調整した日銀の「消費活動指数」でみると、12月も10-12月も前月(期)比減少となっています。
確かに冬のボーナスは増加して家計収入は増えたのですが、無職世帯も含めた全体の家計消費は依然として伸び悩み、足元ではむしろまた減少する形になっています。
政府日銀の個人消費の判断とは裏腹に、現実の消費は物価高の中で弱々しい動きとなっています。そしてこれは足元の一時的な弱さではないところに、日本経済が抱える大きな問題がうかがえます。
10年間の消費低迷
日銀の『消費活動指数』の水準が日本の問題を示唆しています。
この指数、2015年平均を100とした指数ですが、昨年10-12月期の水準が97で、2015年の水準を下回っています。この内訳をみると、耐久消費財が108と、10年前より8%ほど上回っていますが、サービスが103、非耐久消費財に至っては92と縮小傾向にあります。
このうち、耐久消費財については、日銀が「機能向上」分を付加価値と評価し、その向上分を物価指数の下落の形で「調整」をしているので、その分実質値が大きくなります。例えば、自動車の機能が10%高まると、同じ1台300万円の車が1台売れても、価格指数が10%低下して、実質自動車消費は1.1台売れた形になります。
機能向上分を恣意的に実質増の扱いにしているので、耐久財の108はその分割り引いてみる必要があります。耐久消費財の実質消費はそれだけ「水ぶくれ」しているので、現実の消費は、この指数より小さいと考えられます。従って昨年10-12月の指数水準97は過大評価で、実際にはもっと低く、それだけ消費の実態はより弱いことになります。
これは日銀の指数だけにみられる現象ではありません。内閣府の「国民所得統計」、つまりGDPでも同じ問題が見られます。例えば10年前の2014年10-12月の実質GDPは年率529.4兆円で、足元の実質GDPは557.1兆円です。この10年で5.2%増えたことになります。
これに対して民間最終消費(広義の個人消費)は10年前の298.5兆円から足元では298.4兆円でややマイナスの横ばいです。このうち、実体のない帰属家賃も除いた純粋家計消費は242.9兆円から240.4兆円に1.2%減少しています。日銀の「消費活動指数」ほど大きな減少ではありませんが、方向としては同じように消費がこの間減少しています。
このため、GDPに占める家計消費の割合は、非営利団体も含めた広義の「民間最終消費」でみると10年前の56.4%から足元で53.6%に、非営利団体や帰属家賃も除いた狭義の家計消費は10年前の45.9%から43.2%に低下しています。GDPに占める家計消費の割合は中国ほど低くはないものの、先進国の中では異常に低くなっています。
GDPで最大の需要項目である個人消費が弱ければ、それだけGDP成長も低くなります。
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