今回は、株式会社オルツ<260A>という会社が粉飾決算の疑いで、証券取引等監視委員会の調査を受けているという話題を取り上げます。オルツ社は昨年10月に上場したばかりの新しい会社ですが、上場直後にこのような事態となり、大きな影響が出ています。特に、上場直後で話題になったこともあり、購入してしまった個人投資家も少なくないのではないかと考えられます。なぜこのような事態が起きてしまったのか、そして個人投資家が今後このような問題に巻き込まれないためには、どういった点に注目すべきか を詳しく解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
株式会社オルツとは?主要サービス「AI議事録」に疑惑
まず、オルツ社がどのようなビジネスを行っていたとされているのかを見てみましょう。
オルツ社の売上の大半を占めているのが、「AI議事録」というサービスです。これは、音声認識技術を用いて、ウェブ会議などの議事録作成を自動で行うサービスと説明されています。
その特徴としては、金融、医療、製薬、化学など、業界・業種に特化した高い精度の音声認識ができると謳われています。専門用語なども正確に認識し、議事録として適切に文字化できる点が強みだとされています。
しかし、今ではZoomやGoogle Meetなどにも同様の議事録機能はすでに搭載されており、このAI議事録サービスが本当に高い利便性を持っているのかは疑問です。

オルツ<260A> 日足(SBI証券提供)
粉飾決算疑惑の具体的な内容とは?巧妙な売上計上スキームの疑い
今回問題となっているのは、この「AI議事録」の有料アカウントが実際には利用されていないにも関わらず、売上が計上されている可能性が認められた、という点です。この疑惑により、オルツ社は2025年12月期第1四半期決算の発表を遅らせるというリリースを出しました。決算の延期は、投資家から見れば非常に懸念すべき事態です。
この売上計上の仕組みには、ジークスという会社が深く関わっていたと見られています。オルツ社の売上高約60億円のうち、約50%がこのジークスに対する売上となっていました。ジークス社は、AI議事録の販売会社、販売代理店として報告されています。
疑われている具体的な取引内容は、以下のような巧妙なスキームです。
1. オルツ社がジークス社に広告宣伝費として約42億円を支払う。
2. ジークス社がその一部である約32億円を、オルツ社に有料アカウントの購入という形で戻す。
この取引により、実際には商品は誰も使っておらず、売れていない にも関わらず、このお金のやり取りによって、オルツ社は約32億円の売上を計上したように見せかけることができた、という実態が疑われています。これにより、オルツ社は売上高のグラフを上げていくことができたと考えられます。
オルツ社は赤字で上場しており、ベンチャー企業にとって売上増加は非常に重要視されるため、このような方法で売上を見せかけていた可能性があります。これは、本来あるべき姿ではない形で売上を立てていた、ということになります。