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自社株買い5000億円「信越化学」今が買い?長期投資家が注視すべきリスクと今後の成長性=元村浩之

驚異的な財務健全性と今後の株主還元

信越化学の収益性は本当に驚異的で、営業利益率は約30%にも達します。化学メーカーで1桁の利益率が多い中、これは非常に高い水準です。様々な事業を持ちながらトータルでこれほどの利益率を維持しているのは、並大抵のことではありません。

財務体質も非常に健全で、自己資本比率は80%を超える水準です。手元現金も足元で1.8兆円ほどあります。まさに「お化け企業」と言えるでしょう。

これほど多額の手元資金がある中で、有効な使い道はあるものの、1.8兆円という巨額な金額の全てを素材メーカーとして設備投資に回す先は多く見つかっていない状況だと考えられます。そのため、余剰資金を株主に還元することで、企業価値を高め、維持・向上させていくという判断に至ったのでしょう。

信越化学は、過去の実績を見ると、配当を減らさない累進配当のような傾向が見られます。配当が増えたり、自社株買いで1株当たり利益が伸びていくことで、連続増配株として見る可能性も出てくるかもしれません。

もちろん、これだけ規模が大きくなったため、今後の業績がこれまでのような急成長を遂げる可能性は低いかもしれません。順調に伸びていくとは思うものの、成長率という点では難しいでしょう。

手元に多額の資金があり、入ってくるお金も非常に大きい一方で、それに見合う大規模な投資先が限られている状況です。もちろん半導体ウェハのように市場が伸びる分野への投資はありますが、それ以外の投資先を見つけるのは簡単ではありません。そう考えると、合理的な判断として、今後しばらくは株主還元が中心になっていく可能性が高いと考えられます。資本効率を高める上でも、自社株買いや配当による還元が盛んになるのは必然と言えるでしょう。

過去の実績(2024年3月期)に基づくPERは約17倍です。業績が今後大きく伸びないにしろ、安定的に成長し、増配や自社株買いが期待できることを考えると、比較的リーズナブルな水準にあると言えるかもしれません。値がさ株であるため瞬間的に下がるリスクもあるかもしれませんが、人から買い支えられる可能性もあるでしょう。

信越化学工業<4063> 週足(SBI証券提供)

信越化学工業<4063> 週足(SBI証券提供)

潜在的なリスクと将来の成長の種

リスクとしては、景気敏感株として見られる側面があるため、経済状況の変化によって瞬間的に株価が下落する可能性が挙げられます。特に、米国の住宅市場の動向や、半導体市場が世界経済に左右される点はリスクとなり得ます。トランプ政権の政策による影響なども懸念されますが、米国での現地生産体制などから、直接的な関税影響は限定的かもしれません。また、為替変動も業績に影響を与える可能性があります。

一方で、将来の成長の種も持っています。塩化ビニルや半導体ウェハといった主力以外にも、各事業分野には有料な高収益素材が多数存在します。例えば、半導体を照射する際に必要なマスクブランクスや、有害物質を出さないシリコーンなどが挙げられます。時代とともに高性能な素材が求められる中で、信越化学はそういった材料をいくつか持っています。

ただし、これら一つ一つが主力事業に匹敵するほど非常に大きいというよりは、高収益な素材が積み重なっていくというイメージで見ています。塩化ビニル樹脂や半導体ウェハに次ぐ規模感の材料が今後出てくれば面白いですが、現時点ではそこまでのものは見当たらないかもしれません。

まとめ

信越化学は、カリスマ経営から堅実な経営への移行期にあるのかもしれません。しかし、長年培ってきた圧倒的な低コスト競争力と、先端分野での高付加価値製品という両輪により、驚異的な高収益体質は維持されています。潤沢な手元資金を背景に、今後も株主還元(自社株買いや配当)が期待できるでしょう。景気変動による影響を受ける可能性はありますが、強固な財務基盤と多様な収益源を持つ安定した企業と言えます。中長期的な視点で注目する価値のある銘柄だと考えられます。


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image by: Piotr Swat / Shutterstock.com
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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年5月29日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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