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もはや中国「レアアース外交」は通用せず。日本が深海採掘で世界2位の供給国に躍り出る日=勝又壽良

中国空母出動の裏には、中国がかねてから切望してきた「第二列島線」(伊豆諸島・小笠原諸島・グアムなどを結ぶ防衛戦)を超えて、太平洋へ覇を進めるという野望が隠されている。中国は、深海の資源採掘と第二列島戦超えという軍事的戦略の同時達成を狙った行動を開始したのである。

中国のレアアース戦略には、軍事的戦略拡大という狙いも込められている。それだけに、中国にはレアアースの絶対的な優位性確保という「悲願」がみてとれる。だが、この中国の願いは叶えられないであろう。資源の寡占や独占を狙う「資源カルテル」は成功しないからだ。

中国は2010年、日本が尖閣諸島の国有化を決定したことに抗議。日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。中国のレアアース精錬は、日本企業の技術によって始まったものだ。中国は、その「恩人」筋の日本へ輸出停止処分を突きつけた。2010年1月に1キロ当たり4.15ドル(約600円)だったセリウムは、2011年7月には150.55ドルまで高騰したのである。

こうした状況にも関わらず、中国のレアアース戦略は失敗した。ユーザーが、「脱レアアース」に動き単位当たり消費量の減少を行ったからだ。中国国内では当時、レアアース価格の高騰で密輸が増えたことも「敗因」に上げられている。今回は、当局が1キログラム単位で管理していると伝えられている。だが、「上に政策あれば下に対策あり」の中国社会だ。いずれ、密輸が始まるであろう。未だに、賄賂が終息しない社会である。

中国が、レアアース輸出禁止という行為に出てきたのは、一種の「資源カルテル」行為である。先の日本への輸出禁止令も長続きせず、中国はうやむやのうちに終らせた経緯がある。市場参加者が、代替供給源を確保する能力や、技術革新によってレアアース依存度を減らす力が働くからだ。

2010年の対日レアアース輸出禁止の失敗は、原材料を地政学的な武器として使う試みに根本的な制約のあること示した。中国は、レアアースの市場シェア90%を維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)にまで減らしている。武器計画用のレアアース在庫は、一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持され、「中国対応」は整っているのだ。

27年1月に試験操業

日本が、南鳥島深海でのレアアース泥は、およそ100平方キロメートルの有望エリアだけでも、日本の年間需要の数十年から数百年分に達する莫大な資源ポテンシャルをもつことが判明した。これは、東大研究陣による判定である。問題は、5,000メートルを超える深海から、周囲の環境を破壊せず安全に地上へ回収する作業が、前例のない高い難易度の作業であることだ。東大が公表している資料では、次のような手順で準備作業が始まっている。

東大は2014年、「レアアース泥開発推進コンソーシアム」を設立した。これには、日本を代表する30以上の企業や機関が参加し、5つの部会に分かれて検討を進めている。レアアース泥の開発システムとしては、海洋石油生産で多く用いられている「浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)」を応用したシステムが採用される。

海底からレアアース泥を揚げるためには、「エアリフト」という技術が用いられる。これはパイプに圧縮空気を送り込んで泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き揚げるものだ。揚泥されたレアアース泥から、レアアースを浸出する。この溶液を陸上工場へ輸送し、レアアースを分離・精製する過程を経る。残泥は、中和・無害化して埋め立て資材やセメント資材、環境資材として使用することを検討している。

日本政府は2022年、レアアース泥の採掘に乗り出すことを決定し、採掘法の確立に向けた技術開発に着手した。内閣が、一体となって9府省4国立研究機関が参画し、大学や企業を巻き込み推進する一大国家プロジェクトである。

内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)は25年4月、次のような具体的開発プログラムを明らかにした。『日刊工業新聞』(4月9日付)が報じた。

計画では、2026年1月に南鳥島沖の水深6,000メートルの海底で、地球深部探査船「ちきゅう」の船上から揚泥管と接続した採鉱機を降下させ、船上への揚泥を確認する接続・採鉱試験を実施する。27年1月には、1日当たり約350トンの採鉱、揚泥試験を行い、陸上に輸送後、分離・精製する。

これが軌道に乗ってさらに拡大されれば、日本が世界第2位のレアアース供給国となる可能性が確実となろう。

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