ちぐはぐな政府の物価対策
そもそも政府の物価対策がちぐはぐです。
政府は物価高が大変だと言いながら、財政政策は給付金も含めて財政赤字を拡大する方向で運営されています。ケインズ経済学的には、これは物価を押上げるリフレ政策にあたります。
日銀はもっと問題で、これまで政府日銀が掲げてきた2%の物価安定目標をすでに3年以上も大きく上回る中でも、まだ物価上昇は不十分で、金融緩和で今後もインフレを押し上げたいと言っています。
政府日銀は、刀で国民を切りつけ、出血が多くなったところで、絆創膏を2枚給付して、これを貼ればラクになる……と言っているようなものです。刀で切りつけることをやめれば、絆創膏はいらないのです。
その政策矛盾に気づいていないとは思いたくないのですが、政府日銀の関心は物価を安定させることではなく、インフレにして企業の利益を支援し、市場を活気付け、税収を増やすことを優先しています。
国民の利益と産業界、市場の利益が反する場合、選挙体制や政治の形によって何が優先されるのか変わります。大統領が国民の選挙で決まる国、例えば米国のようなところでは、直接票につながる国民の利益が優先され、企業の利益は後回しになります。しかし、首相が党内勢力で決まり、選挙も組織票の力がより働く日本のような国では、組織票の背後にいる企業や集団の利益を優先し、国民が無視されがちです。
日銀もかつては政府から独立した政策運営ができるよう、日銀法の改正を行いましたが、それでも財務省出身の黒田総裁、学者で政治の世界に疎い植田総裁になって日銀は政府の下請け機関に甘んじ、国民の利益を守る「物価の番人」を放棄。企業や市場の利益を重視して政府に使える組織に変わってしまいました。
日銀の植田総裁は17日の決定会合後の会見で、現実の物価がすでに長期間、目標を超えて上昇し、国民が苦しんでいることは承知しているが、まだ期待インフレ率や基調としてのインフレ率は2%に到達していないので、しばらくは金融緩和を続けてよりインフレを確実に高められるよう、支援して行くと述べています。
そもそも2%以上のインフレが続くことを国民が望んでいるわけではなく、政府が勝手に2%目標を決めたのですが、その背後には、日本だけが物価の安定を続けると為替が円高になって企業が困り、税収も増えないとの意識がありました。
ここには2つの過ちがあります。
まず日本の物価が安定していて円高になるのは、企業が強くて生産性が上がり、価格上昇を要しない環境にあったためで、現に円高でも企業は利益を拡大していました。それでも輸出関連企業から円高は困る、何とかしろと迫られ、円高を抑制するための超低金利政策がとられ続けました。国民の利益より輸出型企業の声を優先しました。
また主要国の物価目標は、もともと高いインフレ率をなんとか2%まで「低下させたい」目標で、国民の望むものであったのに対し、日本はもともとゼロインフレで超安定下にあったのですが、これをあえて2%に「引き上げる」ための目標で、国民にはいい迷惑だったのですが、政府は「デフレ」と言い、これは経済には良くないと喧伝し、企業や市場のため、政府のために高い物価目標を設定しました。






