東京都議選の公示と同時に政府が打ち出した「1人2万円の給付金」。物価高への対応を名目にしていますが、直前まで「財政に余裕はない」としていた政府の方針転換に、選挙目当ての“買収策”ではとの声が上がります。与党の焦りと野党の減税アピールが交錯する中、実質賃金はこの3年で20万円も目減りし、物価は上昇を続けています。家計を直撃する現実に対し、2万円で本当に国民は救われるのか――物価高に苦しむ今、政策の「本気度」が問われています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年6月23日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
またも選挙対策のお金配り…
参議院選挙の前哨戦と言われる東京都議会選挙の公示に合わせるように政府は突然、1人当たり2万円の給付を行う方針を決めました。
これまで「税金の上振れ分を還付するほどの財政状況にはない」と言い、「厳しい財政環境では消費税の引き下げも給付金もできない」と言っていたのが急変しました。政府は食料費に対する消費税負担が1人2万円、消費税全体の負担は1人4万円として、この負担分を還元するといい、物価高対策の一環と説明しています。
しかし、直前までそんな余裕はないと言っていただけに、選挙に合わせた国民買収策、との厳しい評価も見られます。
物価高に苦しむ国民に対して、野党がこぞって消費税減税を打ち出す一方、電気代やガソリン価格対策だけでは勝てないとの与党の焦りを表しています。実際、20日に総務省が発表した5月の全国消費者物価(CPI)は、日銀が物価の尺度としている「生鮮食品を除くコアが、日銀の減速期待に反して前年比3.7%の上昇と加速しました。
参院選を戦うには、2万円の給付金ではなく、本気で物価上昇を抑制し、家計への負担を少しでも軽減することです。
実質賃金はこの3年半で20万円減
石破総理はカナダでのG7閉会後の会見で、この給付金の効果について問われた際、消費税引き下げには時間がかかるのに対し、給付金なら即効性があると言い、さらに物価高対策としてはこのほかにもエネルギー対策も行っていて、全体としては決して不十分ではない、と言い張りました。
確かに、政府はこれまで電気代やガソリン代の抑制などで物価高対策を講じてきましたが、それでも物価(政府がデフレーターとして使用している帰属家賃を除く総合)は令和4年からの3年間で10%あまり上昇しています。しかも、この物価高をカバーするだけの賃上げが実現していないために、実質賃金はこの間減少を続けています。
勤労者の実質賃金は令和4年以降、減少を続け、この3年間の累計で約4%。今年に入ってからの減少も入れると約5%、金額にして勤労者1人当たり20万円余り減少しています。
これに対して2万円の給付では、とても損失の補填にはなりません。そもそも所得については賃上げで一部補填されていますが、2,000兆円の家計金融資産はこの間の物価高10%分目減りしていて、その額は200兆円に達します。
このうち、株で持っている分はその値上がりである程度カバーできている人もいますが、過半は預貯金や債券、年金保険資産で、これは超低金利でほとんどカバーされていません。家計の購買力は実質所得の減少とこの金融資産の目減りもあり、3人家族で6万円から8万円給付されても「一息」しかつけません。
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