IPOの目的:資金調達よりも「現金化」と「信頼性向上」
今回のIPOは、一般的な資金調達を目的としたものではなく、既存株主による保有資産の現金化という側面が強いのが特徴です。新規の公募(新株発行)がない点も非常に特徴的です。
有価証券報告書には、上場目的として以下の点が挙げられています。
- 知名度・信用力の向上
- 海外における信頼性強化
- 人材確保
井上社長が実質的に90%以上の株式を保有している状況であるため、相続対策や、事業を組織としてより発展させるための人材獲得といった目的も考えられます。
同社の高い利益率を考えると、運転資金などに困ることは少ないでしょう。また、IPOにあたって「お化粧」をするような様子が見られない点も、非常にクリーンな印象を与えます。利益率が高いからこそ、会計を無理に綺麗に見せる必要もないのかもしれません。
今後の成長性と株価水準
不妊治療市場は、日本だけでなく世界的にも拡大傾向にあるため、北里コーポレーションは市場の成長に乗って伸びていく可能性があります。特に、現在比較的弱いと見られる中国や北米市場の開拓に成功すれば、さらなる成長も期待できます。現状のニッチトップとしての地位を維持するだけでも、安定した高い利益を出し続けることは可能でしょう。
注目の株価水準ですが、想定売り出し価格1340円に対するPERは、おおよそ15倍程度と見られています。これは、非常に高い利益率を誇る安定企業であることを考慮すると、決して高い水準ではなく、むしろ割安に感じられるかもしれません。
初値がどのように形成され、その後株価がどう推移するかはまだ分かりませんが、もしあまり人気化しないのであれば、長期的に追ってみる価値がある企業だと言えるでしょう。同社はガツガツした成長戦略を追求するタイプではないかもしれませんが、企業としての「筋」は非常に良いと感じられます。
まとめ
北里コーポレーションは、不妊治療という専門性の高いニッチ市場で、驚異的な利益率と高い技術力を持つ非常に魅力的な企業です。東証プライムへの直接上場も、その実力を物語っています。
今回のIPOは資金調達よりも既存株主の現金化や、企業としての信頼性・知名度向上、人材確保が主な目的とされており、安定した経営基盤が伺えます。
今後、中国や北米市場での展開が成功すればさらなる成長も期待できますが、現状のビジネスモデルでも安定的に高収益を上げていけるでしょう。IPO後の株価の動向に注目し、長期的な視点で検討する価値のある1社と言えそうです。
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年6月24日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。