もともと世界には「トリクル・ダウン」は存在しない、との認識が一般的だったのですが、日本ではこの無理な前提にすがってきました。
その結果、30年も賃金が増えない状況を許し、「企業は栄えても国民生活は貧しくなるばかり」の状況を生みました。自民党政治は企業のための政治と言われても仕方がない状況が長い間続きました。
今でも政府の基本的な考えは変わらず、経済対策の中心は企業支援です。物価高対策と言っても、企業に補助金を与え、企業の利益拡大を通して価格の抑制を求める形にしています。
このため、実際には補助金をもらってもガソリン価格を下げない業者が横行しています。企業性善説は通用しないのが今の日本です。
実質賃金増には賃上げより物価抑制
賃上げをするのは政府ではなく企業です。最大コストの人件費を抑えて最高益を出してきた企業が、突然利益を犠牲にしてまで労働者に報いるとは考えられません。
人手不足の中で賃上げをしても、そのコストをまた価格転嫁して利益を確保するはずで、政府もそれを後押ししています。
そうであれば、政府の選挙公約を貫いても、実質賃金はいつまでたってもプラスになりません。賃上げしてもそれ以上に物価が上がるからで、それはこれまでの日本を見ていれば容易に理解できることです。
従って、労働者の実質賃金を増やす最善の道は、3%以上の賃上げを続けることではなく、インフレを抑えることです。
実際、近年の実質賃金プラスになった年の形を見ると、基本的に物価上昇がないか、極めて低いときに限られています。例えば、「毎月勤労統計」でみると、直近のプラスは令和3年の0.6%増になりますが、この年のインフレ率はマイナス0.3%でした。その前のプラスは平成30年の0.2%増で、この時のインフレ率は1.2%の上昇でした。
令和4年以降、賃上げは高まりましたがインフレは3%を超えていて、実質賃金のマイナスが続いています。
政府日銀は物価安定目標を2%に設定して「アコード」を結んでいます。せっかく目標を2%にしているなら、政策面からインフレを2%以内に抑えればよく、今の賃金上昇でもインフレが2%に収まれば、実質賃金はプラスになります。






