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「波乱のSQ」にご用心!? 東証マザーズ指数先物の理想と現実=近藤駿介

「東証マザーズ指数先物」の登場で、投資家はヘッジ手段を得られるという指摘が多い。しかし現実には、ヘッジ機能を発揮するに十分な流動性を保てるかは定かではない。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

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東証マザーズ指数先物登場で「取引の厚みが増す」は本当か?

いよいよ上場

「東証マザーズ指数先物」が連休明けの7月19日(火)に上場する。

マザーズは個別銘柄の価格変動が大きくなりやすく、取引を敬遠する機関投資家も多かった。先物を使ったヘッジ取引ができるようになり、取引の厚みが増す効果が期待できる。

出典:4商品が19日に上場 マザーズ指数先物に関心 – 日本経済新聞(2016年7月16日付)

「東証マザーズ指数」が登場した1999年当時、投資信託会社で運用をしていた筆者のところに「東証マザーズ指数連動ファンド」「東証マザーズ指数ETF」を作れないかという企画が持ち込まれたことを思い出す。

先物オプションのトレーディングにインデックスファンドの運用経験、さらに日本初のETFの立上責任者を務めていたことがあったからだ。

しかし、それは机上ではできても、実務上不可能に近い企画だったので、ゴミ箱行きとなった。

それから17年近い年月が経ち、当時と比べて運用に関する環境は大幅に進歩した今日でも、「東証マザーズ指数ETF」は登場していない。

5月末時点で202本のETFが東証に上場しているが、マザーズ市場を対象としたETFは、東証マザーズ上場銘柄を代表する15銘柄に投資する「マザーズ・コア<1563>」1本に留まっている。

マザーズ市場の特殊性

なぜ「東証マザーズ指数ETF」が登場しないのか。それは、指数との連動性を維持し続けることが難しいからだ。

もちろん一定の誤差の範囲の中でということになるが、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価、JPX日経400などの指数に連動させることはそれほど難しくない。同じ株価指数でありながら、東証マザーズ指数に連動させることが難しいというのは、成長市場ゆえの特性があるからだ。

成長企業を中心とした東証マザーズ市場では、企業が成長していくとマザーズ市場を卒業し、東証一部などへ市場変更していくのが一般的である。

ここでの問題は、東証一部に市場変更していく企業は時価総額が大きくなっており、指数構成比率も高くなっているという点である。つまり、成長した企業が卒業する際には、ポートフォリオの管理上最も構成比率の高い銘柄の売却を迫られ、卒業していない銘柄を買い増す必要が出てくるため、大きな売買を強いられる。

一方、構成比率の高い銘柄がマザーズ市場を卒業していっても、指数の連動性は保たれる。指数の連続性が維持される中で、ファンド内では最も構成比率の高い銘柄を売却し、卒業しない構成比率の低い銘柄を買い増すというコストのかかる売買をしていかなければならない。

簡単に行われる指数の連続性と、手間とコストのかかる調整売買を強いられるポートフォリオというギャップが、指数との連動性が失わせる要因になってしまうのだ。

TOPIXや日経平均といった指数も銘柄入替等によって指数構成銘柄が変わることはあるが、指数構成ウェイトが高い銘柄、例えばTOPIXならばトヨタが、日経平均株価であればファーストリテイリング、KDDI,ソフトバンクが抜けることはほとんどあり得ない話。

仮に構成ウェイトの高い企業が、シャープや東芝、オリンパスなどのように不祥事等で存続の危機に陥った場合、株価が下落することで自然と構成ウェイトが下がっていくことになる。この株価下落は株価指数に反映されるので、これによって指数との連動性が失われることはない。

TOPIXや日経平均株価など東証一部の株価指数は、「落第」はあっても「卒業」はない。これに対して東証マザーズ市場には「落第」も「卒業」もあるという大きな違いがる。

このような成長市場特有の事情が、「東証マザーズ指数ETF」や「東証マザーズ・インデックスファンド」ができない最大の理由になっている。

こうした事情があるなかで、「東証マザーズ指数先物」の取引がスタートする。

Next: 「ヘッジ」は絵に描いた餅?マザーズ指数先物最大の懸念材料とは

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