「マザーズ指数先物」最大の懸念材料はSQ清算
先物の登場で、投資家はヘッジ手段を得られるという指摘が多い。しかし、「東証マザーズ指数先物」がヘッジ機能を発揮するに十分な流動性を保てるかは定かではない。
それは、日経平均などのように裁定取引の対象になりにくい可能性があるからだ。
「東証マザーズ指数先物」で最大の懸念材料は「SQ清算」。
先物やオプションといった派生商品は、原資産との受け渡しが可能であることが前提に成り立つもの。株価指数においてはこの受け渡しをする場が「SQ」になるわけだが、東証マザーズ市場の場合、SQで流動性が低い銘柄を含む全銘柄を売り切る、買い切れる保証はない。
現物株を買い切る、売り切ることができなければ「裁定取引」は成立しない。これができないとしたら、先物取引が「相場取引(アウトライト取引)」になってしまう。
東証マザーズ市場を卒業する銘柄が出てきた際に指数との連動性を保つことが難しい上に、「SQでの決済リスク」があることを考えると、「裁定取引」の対象になり難いといえる。
「裁定取引」に伴う売りが出てこなければ、投資家は「買いヘッジ」に高いコストを支払わなければならないことになる。
また、「東証マザーズ指数先物」の登場によって「売りヘッジ」ができるようになることが期待されているが、一方的な動きになりやすい市場で機動的に「売りヘッジ」をかけられるのは逆張りをする投資家に限られる。
逆張りをする投資家は、これまで通り市場全体が強気の時に保有銘柄を売却して持ち高を減らせば事足りるわけであるから、「東証マザーズ指数先物」の登場によって投資行動が大きく変わるわけではないため、先物の重要性がそれほど高いわけではない。
頭に入れておかなければならないことは、一方的な動きになりやすいマザーズ市場では、市場が弱気に傾いたときの「売りヘッジ」は、東証一部市場以上に難しいということだ。
「相場観」以外の価値観で参加する「裁定取引業者」が増えなければ、マザーズ市場はこれまで通り「相場取引」中心の市場となり、「東証マザーズ指数先物」の登場によって取引の厚みが増すことは期待しにくい。
「東証マザーズ指数先物」の登場によって取引の厚みが増し、機動的なヘッジ取引が行えるようになるという期待を持ち過ぎない方が賢明だといえる。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年7月17日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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