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なぜアップルはVISAを裏切ったのか? iPhone7ショックにクレカ業界騒然=岩田昭男

国際ブランドにとっては裏切り行為だったアップルの決断

今後、実際にiPhoneでSuicaなどの電子マネーを使うには「Apple Pay(アップルペイ)」での対応が必要となります。Apple Payはアップルの決済サービスで、あくまで欧米で発行されたクレジットカードで機能し、日本で発行されたクレジットカードには対応していませんでした。機能はあっても、アップルが日本でそれを封印していたのです。その理由は、Apple Payを使った決済処理に対応する端末が、日本国内にほとんどないということです。

これに対して、国際ブランド・大手銀行などの金融グループには、しっかりとしたロードマップがありました。2020年の東京オリンピック開催までに、NFCの端末を日本全国に行き渡らせるというものです。これに日本政府も参画しており、そういう計画があるのだから、いま早急にこれまでとは異なる規格(つまりFeliCa)を導入するよりも、従来の計画をしっかりと推し進めたほうがいいのではないか、というのがこのグループの考え方です。

当然、アップルにとって今回の試みは大きな冒険でした。結果として、金融グループの意向に反した形になったからです。彼らにしてみれば、業績低迷を打破したいアップルが、日本だけで普及しているFeliCaを使って電子マネーだけではなく、クレジットカードにも対応する方式を立ち上げたのですから、裏切り行為に映ったはずです。

しかし、それでも、国際ブランドのうちマスターカードJCBは、今回のアップルの決定に喜んで従っているように見えます(VISAワールドワイドの消極的な姿勢とは対照的です)。そこに時代の変化を痛感します。ペイメントの主導権が銀行など金融機関からアップル、グーグルといったウェブ事業者へ移ってしまったことの証明のように見えます。ただ、そうはいっても、その根幹にはSuicaがあります。「あくまでSuicaが主役で、クレジットカードはオマケのようなもの」とアップルは見ていると言う人があります。今回の狙いはあくまで、Suicaだったと言うのです。

iD(アイディ)とQUICPay(クイックペイ)が果たした役割

日本の多くの業界関係者は、「FeliCaはSuicaのような電子マネーには最適だけれども、後払いのクレジットカードには対応できないから、やはりNFCの通信技術を導入する必要がある」と考えていました。

ところが知恵のある人がいて、アップルに「iDとQUICPayは電子マネーと言われているけれども、プリペイドのSuicaや楽天Edyなどと違って後払いなのだからクレジットカードであり、それならその仕組みを使っていろいろなクレジットカードを運用できる」と働きかけたのです。

それを聞いたアップルが「なるほど、そういう手があったのか」と、渡りに船とばかりに飛びついて、思いきった動きに出たのではないでしょうか。

iDとQUICPayは、電子マネーとしてはSuica・楽天Edy・WAONなどに比べて会員数などはだいぶ見劣りがしますが、今回のニュースで一躍クローズアップされました。そう考えると、今回の「iPhone7ショック」の仕掛け人は、iDでありクイックペイではないかということになります。

さらにいえば、QUICPayを発行しているのはJCBトヨタファイナンス、iDはドコモ三井住友カードが中心となっています。つまり、背景にはクレジットカード業界の勢力争いがあって、いかにして自社のカードを使ってもらうか、熾烈な戦いが繰り広げられているのです。たとえば、オリコカードはQUICPayセゾンカードならiDというようにです。

消費者はカードで買い物をする際に「QUICPayでお願いします」という具合に、どれを使うか決めるわけです。店側からすれば、従来通り電子マネーを処理するやり方で対応すればいいので、大きな変更はありません。しかし、表には出ませんが、iphone7以降は、クレジットカードの処理でも、裏方のプレイヤーの顔ぶれが大きく変わることになります。そうした点にも注意しておく必要があるでしょう。

いずれにしても、「iPhone7ショック」が日本のクレジットカード業界に今後大きな地殻変動を起こすことは間違いありません。

Next: iPhone7登場で激変するクレジットカード業界、これから何が起こる?

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