中国・ロシアはレアアースに困らない
当然、中国やロシアのハイテク兵器でも事情は変わらない。
特にロシアは兵器システムの一部はアメリカよりも高度で、競合するものが世界にはない状況だ。S-300、S-400、そしてS-500などの最先端のミサイル迎撃システムは、レアアースが多用されている。これは中国の空母、「遼寧」や次世代戦闘機の「Jー20」なども同様の状況である。
しかし中国やロシアは、中国にレアアース産業があるので、供給が自立している。両国の同盟が今後も続く限り、供給は心配ない。
レアアースを政治利用する中国
これは軍事力の基盤を再建し、覇権の永続化を狙うトランプ政権にとっては、危機的な状況である。なんとしてでもレアアースの中国依存からは脱却しなければならない。
もし、世界最大ともいわれる北朝鮮のレアアースの鉱床すらも中国の支配下に入ってしまうと、軍事力の再建による覇権の永続化という目標は放棄しなければならなくなる。
中国にとってレアアースは、政治的な目的で使う戦略物資である。2010年、日本が尖閣諸島の領有権を巡って中国と鋭く対立しているとき、中国はレアアースの日本への禁輸処置を実施した。これは日本のハイテク産業の一部に甚大な影響を与えるとともに、レアアースの市場価格が100倍に高騰した。
もしアメリカとの関係がこじれた場合、中国はレアアースを禁輸し、アメリカのハイテク兵器の生産基盤に揺さぶりをかけることもできる。
米国「レアアースさえあれば万事解決」
一方、アメリカがレアアース産業の再建に成功し、国内のみならず北朝鮮の巨大な鉱床も実質的に支配し、開発するのなら、アメリカのこのような中国への危機的な依存状態から脱することができる。アメリカの兵器システムの完全な自立である。
さらにそれだけではなく、アメリカがレアアースの世界的な供給国となることで、ハイテク機器への依存度が深まる世界の兵器産業やIT産業で圧倒的な優位に立つことができる。
これを見ると、どんな妥協をしたとしても北朝鮮をアメリカ側に抱き込む強い動機が、トランプ政権にはあるのである。
米艦合同軍事演習の無期限停止や非核化の期限非設定など、大きな妥協と見えるトランプ政権の態度も、レアアースにまつわるこのような状況を見ると、よく理解できる。