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欲しがる米国と、NOと言う中国。北朝鮮「レアアース」が鍵を握る世界覇権レース

ハイテク兵器にはなくてはならない存在

これだけ見るとレアアースは、大きな利益の源泉となる希少資源の獲得を巡り、アメリカと中国が北朝鮮の支配を争っているように見えるが、そうではない。事情はこれよりもはるかに深刻である。

実は、高度なIT機器に依存した現代のハイテク兵器の機能は、実質的にレアアースに依存しているのだ。

たとえば、ヴァージニア級潜水艦では一隻に4,140kg、イージス巡洋艦一隻で2,340kg、そしてF-35ライトニング戦闘機では1機あたり414kgのレアアースを使っている。

おもにレアアースは、下記などに多用されている。

  1. ミサイルなどの誘導とコントロールのシステム
  2. 迎撃システムと電子攻撃兵器
  3. 電気モーター
  4. レーザーのトラッキングシステム
  5. 通信システム
  6. 最先端のジェットエンジン

こうした軍事テクノロジーは、レアアースなしでは機能できないのだ。その意味でレアアースは、IT機器に依存する現代の兵器システムにとって、なくてはならないものである。

また、(3)の電気モーターのように、EV車の機関部品のもっとも重要な一部にもなっているレアアースもある。EVシフトの進展にはレアアースは不可欠だ。

アメリカには存在しないレアアース産業

このように兵器システムにとって不可欠なレアアースだが、現在、アメリカの軍事産業はこれを中国から輸入せざるを得ない状況にある。

しかしそれは、米国内にレアアースが存在していないからではない。アメリカは中国とならび、レアアースの推定埋蔵量がかなり多い国だとされている。ところが、いまアメリカにはレアアースを採掘、分離、精錬して製品化できるレアアース産業が存在していないのだ。

たしかにアメリカでも、現代ほどレアアースが注目されていなかった1990年代までは、レアアース関連の企業がいくつか存在し、採掘、分離、精錬の3つの工程を国内で行うことができていた。

ところが、1990年代の後半から安いレアアースが中国から入ってくるようになると、米国内のレアアース関連企業はこの分野から撤退した。最後の企業は2002年に破綻している。

この結果、米国内に兵器システムにはなくてはならないレアアースが存在していたとしても、それを使えるように製品化するための産業がもう存在していないのである。

いまでも少量のレアアースは採掘されているようだが、分離と精錬をする企業が国内にはないので、中国企業に依頼している状況だ。アメリカでレアアース製品化のすべての工程を担うことのできる産業を再建しようとすれば、少なくとも15年はかかると見られている。

このような状況は、国防予算を増やして軍事力を増強し、拡大する中国、ロシア、イラン同盟を押さえて覇権の永続化を目標にしたトランプ政権にとっては、なんとしてでも解決しなければならない死角になっている。

要するに、敵をやっつけるための兵器は、実は敵からの輸入に依存しているという逆説的な状況にあるのだ。

他方、中国は、レアアースの供給を独占するためのシステムを、すでに1990年代の始めから戦略的に構築してきた。レアアースの採掘、分離、精錬を一貫して行うことのできる産業の形成である。

現在世界では、中国だけがこのテクノロジーを持っている状況だ。

Next: レアアースを政治利用する中国。日本も被害者に…

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