旧ソ連崩壊後の状態を知る人は少ない。それは、公的資産すべてが「無主物」になったことで、新たな「無主物先占」を競う「略奪社会」そのものだった。この資産奪取をひとつずつ抑圧・解放していったのがプーチンだった。今回のウクライナ戦争は、西側の資本主義に対抗するために、ロシアが起こした戦争と考えることもできる。もちろん、どちらも正当化することはできない。このウクライナの紛争を、新たな社会に向けての教訓にしなければならないと思う。(『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』)
※本記事は有料メルマガ『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』2022年3月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。
プーチンが旧ソ連崩壊後に味わった苦渋
旧ソ連崩壊後、プーチンはタクシー運転手をしていたという。
「正直言うと話したくないが、残念ながら事実だ」。ロシアのプーチン大統領は昨年末にテレビ放映されたドキュメンタリーで、「ソビエト連邦崩壊後の一時期、個人タクシーのアルバイトで副収入を得ていた」と明かした。
旧ソ連崩壊後の状態を知る人は少ない。ぼくも以下のきっかけがなかったら知らなかったと思う。それは仲の良いピースボートのスタッフたちが、世界で見て体験したことを聞いた場面だった。スタッフは船を借りるために船主と交渉するのだが、その船籍があるのがウクライナだったため、ウクライナの事情を知ることになった。
ギャングたちが奪った元国有資産
ロシア崩壊後、そこで起きていたのはとんでもない事態だった。それまでは国有だったものが、崩壊によって誰のものでもなくなった。すると船長自身が船主を名乗ったりして、所有を競うことになった。
これは公的資産が突如、法律で言うところの「無主物(誰のものでもない物)」となり、「先占(早い者勝ち)」の対象となったのだ。
これが争いの種となり、最初に船主を名乗った元船長は殺され、バックにギャングがいるような強い者が奪うまで安定しなかった。
これがエリツィン大統領時代の旧ソ連の現実だった。
こんな混乱を見逃さないのが「ファンド」だ。ジョージソロスのようなファンドは「民主化」という装飾語を用いながら、ここに投資して儲けていった。これは行きすぎた資本主義の形だと思う。
しかしだからといって、ロシアという国家のウクライナ侵攻については正当化されない。
旧ソ連崩壊以降、普通に生活する人たちには関係ないところで社会が動かされ、巷は力の強い者が跋扈するようになった。従来は「社会主義」だったから、国の所有権はすべての公的資産に及び、それらを奪った者が自分の利益に変えていった。
ピースボートが借りようとしていた船自体も対象となっていたのだ。公のものはすべて奪取の対象となり、力ある者が安定した力を持ち勝つのだから、ギャングのボスたちが支配者になっていった。